
さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は今、満たされているであろうか。心に欠けたものも穴もなく、満足な状態であろうか。そういう方もおられるかもしれないし、おられないかもしれない。心に何処か穴、欠落、満たされぬものを持っている、という方もおられるかもしれない。この作品の主人公、コノエ(表紙)は転生者であり。満たされぬ心の欠落、胸の穴を抱えた者なのだ。
日本で誰にも必要とされぬ生涯を送り、異世界に転生し。しかし求められたのは異世界の知識。この世界の地下にある、邪神の陰謀により創り出され、超巨大にして果て無く、物理的に人の脚では踏破不可というダンジョン。魔物と死病を溢れさせる、ここを攻略するための技術的ブレイクスルーを求められるも、コノエにその知識はなく。一先ず何もする事がない中、様々な事を教えてくれる教官から誘われたのは、生命魔法の加護を貰わないかというもの。生命魔法を極めた者、「アデプト」に至ればあらゆる欲望を叶えられるというもの。その一つとして、無条件に自分を愛してくれる者達、奴隷ハーレムという言葉に飛びついて。
【それは、絶対に違うよ】
だがここからが大変だった。そも、「アデプト」というのは人類の守護者、最後の砦。故に敗北は許されぬ。生命魔法という力を持つからこそ、文字通り殺す勢いで鍛えられ、何度もくじけそうになるも、時に神様に励まされたり。努力と苦難の果て、人よりは遅いも二十五年かけて、コノエは「アデプト」に至る。
「なに、いつものことだからね」
「時間が、ないのです!」
だが踏み出して一歩、門の先で出会ったのは助けを求める、死病に犯された人たちの群れ。圧倒的にアデプトは足りていないと言う現状を突き付けられる中、コノエは必死に、自分の身体を厭わず故郷を助けてとお願いしてきたエルフの少女、テルネリカ(表紙右)の気迫に押され手を取ってしまい、彼女の故郷を救う為に向かう事に。
多数の魔物と二匹の災害級の魔物、ヘカトンケイルと下級風竜を倒すも、残る一匹の災害級の魔物、下級風竜には逃げられてしまい。気にする間もなく、街にまだいた生存者を救う為に、己の力を振るう事になって。
「・・・・・・はい! 私は、私の好きなことをします!」
人々を救うための「アデプト」を救う戦いが続く中、何故か自分の傍に、メイド服着用でいてくれるテルネリカ。街への献身、そして自分への献身。何故そこまでしてくれるのか、その理由が分からない。分からなくて距離感を測り兼ねて、けれど何故か彼女は世話を焼いてくれる。
「風が強くても、寄り添っていれば温かいんですよ」
そう言って、寄り添ってくれる彼女。意味は分からずとも、その温かさは気が付かぬ間にいつの間にか、当たり前に。しかし街の復興と共にコノエの仕事は終わり、テルネリカは姿を消す。都に戻ったコノエを迎えた教官が告げたのは、テルネリカの家族、家の真実。そしてテルネリカがコノエに払う、報酬の出どころの真実。
「なぜ、言わなかった!?」
分からずとも、己の中に今ある思いのままに駆けだして。その前に立ち塞がるのは都に襲来した災厄級の魔物、固有魔法を身に付けたあの日の風竜。嘲りが根底にある敵を、その心の隙をついて撃ち抜くも、固有魔法により道連れにされかけ。だが、テルネリカの愛が、コノエの武器の真価を少しだけ引き出し、道を貫き通して。
「いてくれるだけで、よかったんだ」
その先に、やっと辿り着いたテルネリカの元。まだ己の心に名前はないけれど、それでも君との時間を、と手を伸ばして。新たに二人の時間が始まるのだ。
愛によって撃ち抜き、愛によって成長する。そんな、空白を抱えた青年の成長譚であるこの作品。心に響く作品を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。