さて、気ぶりという言葉があったり掛かりという言葉があるのは既に画面の前の読者の皆様もご存じであると思うが。ラノベにおける主人公とヒロインの恋路を、後方保護者面というやつで見るようになって、その恋路の行方に気ぶったりかかったりするようになるのはいつ頃なのだろうか。 そんな前置きから察していただけたかと思うが、この作品において展開されている恋路は、とってももどかしくて時に空回りしているものである。だからこそ気ぶりながら読んでいくのが正しいのかもしれない。
ではどういう話なのかと言うと。一言で言ってしまえば、家族ぐるみの付き合いの幼馴染同士、両片想い同士の恋のお話である。ある意味近すぎるからこそ、素直になり切れなくて。だからこそもどかしい、と言えるのかもしれない。
「―――これはトモダチの話なんだけど、蒼汰のことが好きみたいなの」
クールで素っ気なく、学年一のイケメンの告白も一刀両断。だけど幼馴染である平凡な少年、蒼汰にだけは心を許している乃愛(表紙)。蒼汰の心の中にいつの間にか生まれていた、彼女の事を好く想い。だけどその思いに蓋をして過ごすある日、トモダチの話という事で持ち掛けられたのは恋愛相談。一先ず自分の好みを答えた翌日、乃愛の外見がちょっとだけ変化したりしたものの、特に何も起きなかった中。蒼汰の元に届いたのは、後輩である茜からの告白。大切にしたい人がいると言う思いで断った、その答えを見届ける事無くしかし途中まで見届けていた影が一つ。
「蒼汰が誰かと付き合う瞬間なんて、見たくなかったから」
その答えは勿論、乃愛である。なんて事はない、彼女もまた彼のことが好きで、だけど告白できずにトモダチの話という形でアプローチをかけていたら、嘘が真になってしまったという訳である。 もはや猶予はなし、と乃愛は時々自分の想像でショックを受けたりしつつも、もっとアプローチをしていこうと決意する。
ある時は蒼汰が選んだ清楚系の服を着てデートしてみたり、またある時はバカップルのフリをしてみるという事で、もだもだしながら迫ってみたり。再び蒼汰にちょっかいをかけてくるようになった茜に呆れられたり、乃愛の保護者である祖母に温かく見守られたりしながら。「トモダチの話」、という名目での不器用ないちゃいちゃは繰り広げられる。
「だから約束じゃなくて、俺の気持ちを表明しておきたいんだ」
そんな中、蒼汰の好きな人がいると言う答えに、戸惑う乃愛。そこにかけられるのは、その恋がどうなろうと傍に居る、という過去の約束を超えた今の思い。
その思いはまるでプロポーズのよう。だから、乃愛も勇気を出して。自分も思いを告げようとして。
「―――って、トモダチが言ってて!」
だけど肝心なところでヘタレてしまって。やっぱりまだまだもどかしい関係は続くのである。
もどかしさとこそばゆさが目白押し、相好が緩むのが止められぬかもしれないこの作品。にまにましたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
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