読書感想:不可逆怪異をあなたと2 床辻奇譚

 

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読書感想:不可逆怪異をあなたと 床辻奇譚 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で蒼汰が半分だけ土地神、人外になると言う選択をし、新たに家族になった一妃も含めて家族三人での日常が始まる、という意外と一巻完結でも納得な終わり方であったのだが。今巻は蛇足にならぬか、と心配されている画面の前の読者の皆様もおられるかもしれない。だがしかし安心して欲しい。蛇足、という事には決してならぬのだという事を。

 

 

 

「俺、転校だって」

 

半分だけ地柱になった事で力は不安定、その代償として怪異の自然発生も時々起きて、それの解決のために駆り出されて。そんな中、後輩であり、監徒の一員である加月から齎されたのは地柱になったので、市内の高校に転校して欲しいと言うもの。それを受け入れ、転校した先にいたのは北の地柱、墨染雨。血汐事件の被害者の一人、紀子という少女を知っているかと問いかけられた以外は特に何も起きる事はなく、恙なく挨拶は終わる。

 

一妃から異郷がどんなところか、という話も聞いたりして暫し穏やかな時間が流れる中。やはり異郷の、白線の侵攻は待ってくれない。地柱としての仕事の最中、再び湧き上がってくる白線。その後、持ち掛けられた相談の中に見えたのは紀子の影。異郷に取り込まれた筈の彼女が帰ってきた? あり得ない筈の状況が墨染雨や蒼汰たちの心を揺らす中、道路の真ん中に立っていた紀子が国の職員に保護され、引き渡す条件として地柱の身体を調べる事を求めてくる中。保護されている病院を墨染雨が襲撃し彼女を連れ出す、という事態が発生する。

 

さてこれは一体、どういう事態なのか。それは異郷からの次なる一手。取り込んだ事が出来るなら送り込む事も出来る。動き出した門を止める為には、紀子を殺すほかなし。それに気づいた墨染雨がそれを為そうとする中、無粋な人間の介入があって。その先、その身体を目印に一妃の姉、双華の手による侵攻が始まって。床辻市は唐突に、消失の危機を迎えていく。

 

最早、対話の余地はなし。そもそも殺しに来ている相手に何も語ることはない。だからこそ守るために。一妃と蒼汰が協力し双華に向き合い、花乃も自ら危険な役割を担って。何とか全員で、戦いを終わらせる。

 

「お兄ちゃんが、わたしのお兄ちゃんでよかった」

 

そして、いまだ閉じぬ異郷への門の前で。彼女は一つ、決意を固める。自分の理想が広がっている、向こう側の世界の管理者となる事を。理想の世界へ旅立っていくことを。そして最後の愛の言葉を交わして。三人の家族は二人となって歩き出していくのである。

 

前巻と同じく、愛の物語である今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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