読書感想:ほうかごがかり

 

 さて、放課後と言う時間帯は基本的に小学校から高校までくらいの期間の間に存在していたものであろう。そんな時間、画面の前の読者の皆様は何をされていたであろうか。部活動で青春を過ごされていたかもしれないし、例えばバイトに勤しんでいたかもしれないし、もしくは気の合う友人達と、何気ない日常を過ごされていたかもしれない。それぞれの時間の過ごし方がそこにはあったであろう。

 

 

そんな「ほうかご」、という時間が舞台になるのがこの作品であるが。まずこの作品の作者の名前を見て欲しい。甲田学人先生である。どこかメルヘンチックながらも、容赦なく人が死ぬ地獄なメルヘンのホラーが十八番の方である。そんな先生が書かれる放課後とはどんなものか。これは絶対に過ごしたくない「ほうかご」のお話なのだ。

 

陰湿な虐待をしてきていた父親から、母親に連れられて逃げ、公営団地で母子家庭で暮らす少年、啓。特徴と言えば、絵が得意だという事くらい。そんな彼が六年生に進級したある日、いつの間にか黒板に描かれていたのは「ほうかごがかり」という役職と自分の名。首を傾げつつその名を消した後の夜、真夜中に突然響き渡ってきたのは調律の壊れた学校のチャイムと、学校に集合してくださいと言う謎の校内放送。疑問に思う間もなく部屋の扉を開けた先、そこは様相が様変わりした学校の屋上。その屋上に「いる」真っ赤な何者か、に引き込まれそうになった所で、仲たがいした親友の惺に助けられ。普段は学校の「開かずの間」として知られる場所で、話しを聞かされる事となる。

 

「じゃあ、まあ、よろしくね。今年の『ほうかごがかり』のみなさん」

 

顧問を名乗る謎の生徒、太郎さんに説明されるのは、ここが「ほうかご」と呼ばれる学校を模した異空間であり、啓、惺、臆病な少女のイルマ、キッズモデルの真絢(表紙)、霊媒体質の菊、いじめられっ子の留希、そして太郎さん。この七人は週に一回、金曜日の真夜中にこの異空間に集められ、それぞれの担当として割り振られた学校の怪談の雛、「ナナフシギ」を観察、日誌に収めて記録する事でその成長を止めると言う使命を押し付けられ。これはこの学校が始まって以来、ずっと続いていると言う事実。

 

一先ずやるしかない、しかし「ナナフシギ」や怪異たちは時に引き込もうと、心を侵食しようとしてくる。

 

「世話係って言ってたけど、そんなの、生贄じゃんか・・・・・・」

 

そして、怪異の雛である「ナナフシギ」達の影は、それぞれの担当の日常に入り込んでくる。その記録はチキンレース。入れ込めば入れ込むだけ、怪異の心臓に近づき、同時にその喉の奥に入っていく。それでも、自分に出来る方法で。啓は絵を描くと言う方法で、自身の担当である怪異、「まっかっかさん」の本質をとらえ、記録する事に成功する。

 

「ほしいんだね?」

 

・・・・・・だが、忘れてはいけぬ。この作品はメルヘンだがホラーであり、怪異の魔の手はいつでも狙ってきていると言う事を。心に抱えた歪みの間隙を突かれ。啓の裏、彼女は怪異に囚われて。その存在を現世から食われてしまうのだ。

 

小学生に何をやらせてるんだ、背負わされてるんだと思ってしまうかもしれない。しかしこのホラーは。小学校が舞台だからこそ怖い、のだ。正に背中に手を伸ばされるような、身近な場所の暗闇が怖くなるような静かな怖さに満ちているのだ。

 

背中をホラーで冷やしたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: ほうかごがかり (電撃文庫) : 甲田 学人, potg: 本