読書感想:蜘蛛と制服

 

 さて、蜘蛛という生物から連想されるものの中で有名なもの、というと何になるのであろうか。スパイダーマンアクロマンチュラ、ネルスキュラ、ワナイダー・・・様々なものがあげられるかもしれない。しかし蜘蛛、と言ってもその生態は様々である。一般的なイメージである巣を作る種もいれば、地面に縦穴を掘って獲物を狙う種もいる。一口には言い切れぬ魅力があるのである。

 

 

しかし蜘蛛、というのは時に怖いイメージも持つ。それはファンタジー世界で蜘蛛をモチーフとした魔物のような敵性存在が時折登場する事からも分かるかもしれない。

 

「大丈夫。二人にはよく言っておいたから。ほら、おいで」

 

この作品における蜘蛛、「人形蜘蛛」と呼ばれる種もまた異世界の魔物である。獲物である人間に卵を産み付け、人間を食らい人形のような存在へと変える。電車に轢かれる、という経緯でこの人形蜘蛛の巣へと転生を果たした少女、琥珀(表紙)。しかし上記の台詞を見て欲しい。何故、「二人」なのか? それは彼女がこの蜘蛛たちを愛したから。愛したからこそ、進んで餌としてその身を捧げようとしているのである。

 

元から押し殺していた、蟲が好きという自分。この世界に来て、餌として左目に卵を植え付けられて。しかしその成長に、言い知れぬ感情と愛を感じ。この世界の英雄であるドラゴという男に助けられそうになる中。それこそ無差別に、無情に殺されていく子蜘蛛たちの様子に激しい憤りを感じ。気が付けば彼女は、英雄を殺していた。この世界の言葉で「バーシャ」、「化物」として踏み出した。己の意思で。

 

『帰ろう帰ろう、おうちに帰ろう』

 

「後ろの正面、だーあれ?」

 

自らの身体を食って生まれたお兄ちゃんとお姉ちゃん、瀕死の所を助けたヒメちゃん。三兄妹と共に、歌を歌ってあやし、探索で見つけたポーションを幾本も飲み干し更に餌として己の価値を高め。時に「化け物」として、襲い来る人間を闇討ちしたりしながら。いつしか彼女は「歌う怪物」として有名になっていく。自身の意志で戻れぬバケモノの道を、歩いていく。

 

「いつかかならず私を消して。この化け物を、殺してあげて・・・・・・」

 

だが同時に、彼女は自分という「化け物」が怖い。存在してはいけないと自覚している。その歪さを、実は魔王の娘であったヒメに指摘され。だけど彼女は美味しかった、だから自分の目的の為に貴方を食べると宣言され。琥珀もまたそれを望む。自分という中途半端な化け物の終わりを、自分にとっての救いを願う。

 

『ゆりかごのうたを、カナリアが歌うよ』

 

その冒険の先に待っていたのは、怨念と執念の果てに化け物へと身を変えたかつての英雄。その前にあっさり命を投げ出そうとし、ヒメちゃんに叱咤激励され。四身一体の獣として戦いを乗り越え、英雄を看取る。まるで聖母のような、安らかな笑顔で。

 

その道程は、確実に終わる、彼女の死を以て。その道を喜んでいく彼女は、殉教者か、それとも聖女か。それはまだ分からず彼女達の旅もまだ、始まったばかり。だけど確かにこの旅には、「愛」があるのである。

 

独特のグロテスクさの中で生と死、そして愛について触れていくこの作品。何処にもないファンタジーを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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