読書感想:もしも明日、この世界が終わるとしたら

 

 さて、往々にしてSFの世界においては世界というのは簡単に滅びるものである。例えば人類や文明を滅ぼさんとする絶対無敵な怪獣の手により。またある時は、空から降ってきた巨大な星により。無論、現実世界においてそんな事態は起きるものではないし、世界は今日も平穏無事である。では、それを踏まえた上で画面の前の読者の皆様にお聞きしてみるとしよう。皆様は、この世界がもし明日終わるとしたら、何をされるであろうか。終わる世界の最後の日、一瞬ともいえる時間をどう過ごされるであろうか。

 

 

「この世界のことを救ってもらえませんか?」

 

一秒先の未来が、ランダムに見える。そんな力を持つ以外は平凡な少年、空。彼はある日、目覚めた時。目の前に広がっていたのは見た事もない風景。そして目の前にいたのは、見たことのない筈なのにどこか既視感のある謎の少女、ユーリ(表紙)。

 

 彼女は語る。この世界は約一年後、空から落ちてくる巨大隕石により滅ぶ。確実に終わる未来を迎えるこの世界を、かつて「獣の王」と呼ばれた魔物を退けた「英雄」の生まれ変わりである筈の空に救って欲しい、と。だがユーリが属していた「学園」の主、クロースは語る。その為にはユーリを殺し、彼女が秘めている「希望」を用いるしかないと。

 

彼女を殺す、そんな決断は今まで一般人であった空には急にできるものではなかった。戸惑いながらも、ユーリが放送に使ってるラジオを修理するためにクロースに助力を仰ぎ。しかしその場で彼女から問われた事に答えた事で敵として認定され。一日以内に奪って見せろ、という彼女に対抗する為ユーリに意見を仰ぎ。英雄の生まれ変わりとして言うべきであった言葉を届ける事で和解に成功する。

 

日々隕石の欠片が降ってくる学園で、ユーリやクロースと三人家族としての時間を過ごしたり、物資補充のために探索に出た先で、迷い込んできた異世界人のルカと、元奴隷のワーウルフの少女、ギンを見つけ仲間となったり。

 

だが、そんな日々の中で浮かんでくるのは英雄としての前世の記憶、そこに秘められていた憎悪の感情。ユーリを保護し、家族となり。だがその裏で世界をこれでもかと憎み、滅亡への引金を引いていた。かつての自分の思いが分からず戸惑っていく。

 

その日々は長くは続かなかった。ユーリを殺す為、かつての英雄の仲間が襲来し、空達を逃がす為にクロースが犠牲となり。ユーリを助けようとするも、「希望」の防衛機構に攻撃を受け、ユーリに関する記憶を失ってしまったのである。

 

記憶を無くし、この世界を救う必要もなくなった。ルカにより告げられたのは、元の世界に戻れる可能性。

 

だが、それではいけないと心が叫ぶ。かつての自分が、そして今の自分自身の心が何かを求めて叫び出す。

 

一体何を求めているのか、それは彼女の「声」。届けたいのは何か、それは「過去」の自分ではなく「今」の自分の秘めた気持ち。

 

「君に逢えて、本当に、よかった」

 

それは偽らざる自分の気持ち。好きだ、という素直な気持ちの発露。

 

それを告げても世界は変わらない、滅びの未来は変わらない。

 

だけど、それでも、と彼は決意する。この世界もユーリも、全てを救って見せるということを。

 

終わりかけた世界を仕方ないなと受け止めながら、それでも出会い絆を紐解き恋をする。切なさが根底にあるボーイミーツガール、故にこの作品は独特の綺麗さを持っているのである。

 

心から綺麗なものを見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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