
謙虚堅実、それは生き方としては大切な事、であるのかもしれない。花火のごとく鮮烈に、豪放磊落という生き方もあるかもしれない。無論どんな生き方を選ぶかは画面の前の読者の皆様の自由であろう。しかし謙虚に堅実に、というのは社会に出た読者様は、いつしかそういう生き方を、と考えていくのではないだろうか。実際、謙虚堅実に生きていれば、まぁそう簡単にはひどい事にはならないかもしれない。
という訳でこの作品においては、ゲームにおける極悪貴族キャラに転生、という最近ではよく見るシチュエーションではあるが。原作を知るからこそ全ての死亡フラグをぶっ潰し、後に敵対するであろう主人公のモブ化を目指す、という石橋を叩いて渡るかの如き丁寧な物語なのである。
「最優先目標は―――とにかく生きることだ」
始まりは何てことない食事風景。思い出したのは、この世界が、世界的メガヒットを叩きだした、ほぼすべてのキャラが操作可能、個別ルートが存在する超マルチエンディング型RPG、「ロンゾルキア」の世界であり、自分は出演キャラの一人、ホロウ(表紙中央)に転生してしまったという事。 寝食を忘れてやりこんだこの世界に転生したのは喜ばしい、しかしこのホロウというキャラ、あらゆる才能に恵まれながら怠惰にして傲慢、主人公に敗北するだけに留まらず、処刑されるわ闇討ちされるわ、とあらゆるルートで死亡するキャラであった。
その死亡フラグは幼き頃から。ではどうしよう。力になるのは原作知識。主要なものはほぼすべての知識を有するが故、ホロウの死亡フラグは知っている。怠惰で傲慢、ではなく謙虚堅実に。舐めたビルドではなく、ガチビルドで。だがいきなり性格を変えても周囲に混乱されるだけ、という訳でゆっくりと動き出す。
「お前の剣は美しい、と言ったのだ」
「面白いモノを見せてやる」
「それじゃ契約通り、異世界の知識を教えよう」
まずは剣術。執事である老練の剣士、オルヴィンに師事し。続けて魔法、ギャンブル狂いな天才科学者、フィオナに師事を仰ぎ、ついでにこっそり引き抜いて。続けて知識、死亡フラグの一つに繋がる、母親にかけられた呪いを解くため、知識の魔女、エンティアと異世界の知識を対価に契約して。怠惰で傲慢、から謙虚堅実に。極悪という角は次第に取れ始め、現れていくのは悪役を下地にした名君の姿。
「私も、あなたと一緒に戦わせてほしい」
彼からすればあらゆる死亡フラグを追っているだけ。それでも、その在り方は諸人を引き付けて。魔王の因子を宿す英雄の子孫、ダイヤ(表紙右下)をはじめとする多くの者達が彼の元に集い。物語の裏で暗躍する宗教集団を相手にする組織、「虚」も立ち上げて。様々に力を磨き、既に原作のホロウは何処にもいない。そして始まる、ゲーム本編、学生生活。そこで待つのは本来の主人公、アレンや彼のヒロインである、大きな宿命を背負う少女、ニア(表紙左上)との出会い。
その中で目撃するのは世界の修正力。アレンのストーリーを狂わせモブに堕とす、その道筋は完璧である筈だった、だがアレンとニアは出会ってしまう。だが推測したのは、それは絶対なものではないという事。矛盾をきたさない範囲、だがそれは自然な流れに限定される。ならばやりようはある。という事で、マッドサイエンティストな祖父に挑もうとしているニアを鍛えあげ、アレンと合流させる。普通に考えれば、ニアとアレンを一度に排除できるイベント。しかし何だか心が落ち着かない。ならばどうすべきか。エンティアとの問答を経て決闘の場に乱入、アレンのやった事を横取りしつつも決着をつけ。
「俺はただ、自分が助かりたかっただけだ」
最後にニアの抱えていたものも消して。まずは一章、ストーリーを乗り切り。次の章へ向かうのである。
王道的なファンタジーの世界観の中、物語と戦っていくこの作品。まっすぐに胸熱くなる面白さが見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 極悪貴族、謙虚堅実に無双する ~原作知識と固有魔法を駆使して、破滅エンドを回避します~ (電撃文庫) : 月島 秀一, しずま よしのり: 本