
さて、画面の前の読者の皆様もご存じであろうが、ラノベ界においては「悪役令嬢」もの、というのは確固たるジャンルの一つである。だが悪役令嬢、とは悪役であって、悪人、とは限らないかもしれない。悪役になったのには何か理由があるかもしれない。そう考えると悪役令嬢、というのは奥が深いものなのかもしれぬ。ではこの作品はどんな作品なのか、というと。貴族社会に馴染めぬ転生者で悪役令嬢好きな少年が、愛を知り貴族として固まっていく純粋なラブコメなのである。
前世は悪役令嬢好きな大学生、今生は異世界のプロテア聖王国という国の南部を治める辺境伯家の長男、アール。一人っ子であり家庭環境は問題なし、チートもなし。そして彼の家が治める領地は、無駄に広い領地に農村が点在するド田舎であり、隣国からの侵略は国境である魔獣の森にまず阻まれ、魔獣も定期的に狩り続けていれば森の外に出てこず。結果、役目にしてはあまりにも平和すぎて「名ばかり辺境伯」と呼ばれていた。
「あなた。下級貴族でありながら、また殿下と気安く・・・・・・っ!」
「それは、レーナ様の生きざまを愛おしいと思ったからです」
十五歳となり通う事になる、貴族の子供が集まる貴族院、そこは学び舎であり貴族の子弟にとっては婚活の場。そこでアールが出会ったのは、王太子であるアルフォンスの婚約者であり、悪役令嬢そのものな態度をとるレーナ(表紙)。彼女こそまさに自分の望んだ悪役令嬢、そこに流れてくるのはアルフォンスが婚約破棄しようとしているという噂。それを聞きつけこっそりと接触、レーナに惚れた部分を熱く語り。婚約破棄、からの追放先として実家の領地はどうかと提案し、受け入れられることに。
「今の私が、本当の私です」
が、しかし。貴族院で三年を過ごした後、予定通り卒業パーティーで婚約破棄された後で実家へと招き入れたレーナは、礼儀正しく、更には家の手伝いも進んでするという正に悪役令嬢とは正反対の姿。その真意を測りかね一週間、伝えられたのはレーナが悪役令嬢、を装っていた理由。それは王家の乗っ取りを企んでいた実家に辟易し、敢えて婚約破棄させることで没落させるためだったのだ。
それを知らず面食らうアール。対し、レーナはアールが自分を救う手立てをしてくれていたと勘づき、恋慕い。
そして、アルフォンスと繋がりを作っていたことによりすべてが動き出す。彼から依頼されたのは、隣国の法国の公爵令嬢であり、王子に婚約破棄されたクリスタの引受先になってくれないかというもの。更にその後、アールの噂を聞きつけやってきたのは隣国の剣聖、テア。
「彼女は後日、私の側室として迎え入れる予定なのです」
「あなたに渡すくらいなら、私がもらうと言いました」
何れも、アールの好みど真ん中、という訳でもない。だが、望まぬ婚約に悩まされている彼女達を見過ごすことも出来ず、レーナにも背を押されたこともあり、彼女達を助けて。結果、三人の淑女と婚約を結ぶことに。
テアに夜這いをかけられたりしつつ、賑やかに。婚約者たちと縮めていく距離。だが、アールにはまだ足りなかった。貴族として、男としての自覚が。貴族社会で生きていくという覚悟が。どんどん辺境伯として名を挙げていくアールが、貴族社会で注目されぬわけもなく。それは貴族の派閥争いに巻き込まれるという事。レーナの実家に代わり貴族派として台頭し始めたエリンジウム侯爵家。当主であるブノワが危惧するのは、アルフォンスと親しい事による王族派の接近。その前に取り込んでしまおうと、送り込まれるのは行き遅れの令嬢、ノエル。正に悪役令嬢な彼女は他の婚約者たちを追い落とそうと画策、レーナたちが弱みを毒舌で突かれ、傷ついてしまう結果に。
「本当に怖いのは、そんなことではないですよね?」
対応が後手に回り落ち込むアールにクリスタが聞くのは、本当に怖いもの。そう、一番怖いのは家族の崩壊。悪役令嬢好きな彼には、悪役令嬢ではないけれど大切な者達が出来ていた。ならば護るのは彼の仕事だ。策を練り逆にノエルを罠に嵌め、アルフォンスへの不敬罪とし追い出して。
「ああ。全員で幸せになろう」
そして、きちんと思いを固めて。三人の嫁と幸せへと歩き出していくのだ。
悪役令嬢もの、と見せて実は純愛ものなこの作品。まっすぐな純愛を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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