読書感想:殺されて当然と少女は言った。

 

 さて、画面の前の読者の皆様には言わずとも周知の事実であると思われるが、死んでいい人間、というのはいない筈である。生きていく理由が無くとも、命がなくならぬ限り生きていく。どんな命とて、無碍に奪われていいはずはないであろう。しかし最近は、例えば殺人事件の被害者に非難されるべき理由が見つかったりしたら、加害者が寧ろ正義の味方のように賞賛されたりする場合もある。一過性の騒ぎかもしれないが、それは倫理とか色々な視点から見て、どうなのだろうか。

 

 

と、まぁそんな話はさておいて。この作品、作者様曰く十代に向けて書かれたらしいのだが。 ・・・・・・十代の方、こういう作品って楽しめるのだろうか? そんな事を考えてしまうかもしれない、衝撃的なサスペンスノベルなのである。

 

「報道が事実であれば、父は殺されても仕方ないと思います」

 

県会議員、真中理人が自宅で惨殺され、その娘である理央(表紙)により犯人は目撃され、中学時代の同級生であると判明しているも、何故か捕まらず。そんな中、理央は遺族へ対する記者会見の場で、衝撃的な発言をする。 犯人に中学生時代いじめをしていた、その報道が事実であれば、殺されても仕方ない、と。 娘により肯定された事で犯人はヒーローのように称えられ。理央は、まるで偶像のように崇拝され始める。

 

何故、彼女はそんな事を言ったのだろうか? その裏には何があるのだろうか? どんな思いがあるのだろうか?

 

紐解く視点は六つ。それは理央に関わり、人生を狂わされてしまった者たちの視点から。

 

彼女を異常という母親。彼女を特別と思う、同性の恋人。彼女の秘密を暴かんとする、同級生の動画配信者。彼女の事を守りたいと願う、事件を担当する女刑事。そして、彼女に引き込まれた犯人、それと彼女の事を崇拝する、ノンフィクション作家。

 

それぞれに関わり、理央が見せるのはそれぞれの顔。それは正に毒。気が付かぬ間に心に忍び込み、気が付けば依存してしまっている毒。彼女は動かしていく、それぞれを。まるで駒を動かすかのように。まるで、心を操作し行動を誘発させるかのように。

 

「私は持てるものすべてを使って、あの子との幸せを守り続ける」

 

「生きている限り、世界と無関係でいることなんてできない」

 

幾つもの事態の中心で、時に己の回りで事件を誘発し。何故、そんな事をしたのか? その理由は、とても簡単。 無関係でいられない世界に、理想を示し続けるため。己にとって大切なものを守りたい、ただそれだけなのだ。

 

この作品、本当にMF文庫Jなのか? 思わずそう疑ってしまうほどに衝撃的、良い意味でラノベらしくないこの作品。唯一無二の、差し込まれる命題を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 殺されて当然と少女は言った。 (MF文庫J) : 空洞 ユキ, 博: 本