さて、突然ではあるが昨今の世の中においては、初婚時の年齢の高齢化が話題となり、結婚をしないと言う選択肢をとる人達が増えているらしい、というのは画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。 何故、結婚をしなくなるのだろう。その前段階として、何故恋人を作らなくなってしまったのであろう。それは意識の変化だろうか。しかし、恋人を作れ、などという事は強制できないのは確かであり、恋人がいずとも充実している、という人が増えていると言うのも一つの事実であるのかもしれない。
そんな、新時代の若者の一人と言っていいかもしれないのがこの作品の主人公である斗真である。特に過去に何があった、という訳でもないけれど、恋愛には疎く、別に気になる女子もいないし恋愛に興味もない。けれどそれでいい、という彼の青春は別に灰色に非ず。
「こんにちは。お久しぶりです」
そんな彼の特に特別な色もない青春を彩るかもしれぬ影が一つ、現れる。その名は凛(表紙)。斗真にとっては「妹の親友」というだけの少女であり、特に近しい関係でもない女の子である。
何も変わらぬ筈だった、何も起きぬ筈だった。そう思っていた、その筈なのに。
しかし、何とはなしに凛とのかかわりの時間は増えていく。気が付けば、何故か彼女が隣にいる事が増えていく。
お互い、特に部活に所属したいわけでもないので帰宅部と言う選択肢を選び、気が付けば一緒に帰る様になって。
凛の高校入学前もしていたように、再び勉強を教える事になり。放課後の時間を使うと言う約束も、当然のように取り付けて。
はっきりと何か、やりたい事もなりたいものもなく。何処か曖昧な、何とも言えぬ難しい関係となりながら。それでも一緒にいる時間が増えていく。プライベートな時間も、彼女との予定で埋まっていく。
見る人が見れば、何故付き合っていないのか、と言いたくなるかもしれないし付き合っていると誤解しても仕方ないであろう。しかし、二人は別に付き合っている訳ではない。
「では・・・・・・お兄さんにとって恋愛とは?」
だが、確かに変わっているものがある。凛との関係を、他の人達との関係と同じとは当てはめられないという意識が芽生えていく。考えれば考えるほど、分からぬ気持ちが胸の中に芽生えていく。
「まず、私との関係性を”妹の友達”と定義することをやめることから始めてみませんか?」
「ずっとありがとうございます」
そんな斗真へ凛はそっと告げる。もう「妹の友達」というのを辞めてほしい。自分も一歩、踏み出すからと。
何処かあっさりと、けれど爽やかに。一瞬しかない何でもない青春を重ね、少しずつ心が変わりゆく。
その様が丁寧に描かれているからこそ、この作品は面白い。独特の味があると言える。
何気ない青春の描写が好きな読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
妹の親友? もう俺の女友達? なら、その次は――? (ファンタジア文庫) | エパンテリアス, 椎名 くろ |本 | 通販 | Amazon