さて、時にラノベのラブコメ世界において、恋に発展するまでに一番もどかしい関係とは何であろうか。その答えはまぁ、読者様各自の考えがあるであろう。なので明確な正解、というのはないかもしれぬ。では読者様の中で「幼馴染」、という関係を上記の何気ない問いに対して答えとして出される読者様はどれだけおられるだろうか。家族ではない、しかし時に家族以上に近しい関係。だからこそ、お互いに意識しない。という事もあり得るかもしれぬ。
そんな関係同士な二人、祐希(表紙右)と夏葉(表紙左)。家が隣同士、という幼馴染の王道的な関係の二人が、恋人同士に変わっていくまでの甘さと尊さが詰め込まれているのがこの作品なのである。
「―――じゃあ、付き合う?」
幼馴染として十数年、お互い傍に居る時間が長すぎて。しかし大学は進路別、というのは決定済み、後は受験と卒業を控えた高校三年生の九月。付き合っていると言う噂を何とかしたい夏葉に祐希がいつものノリで付き合うか、と提案し。幼馴染同士の軽いノリで二人の関係は、あっさり恋人同士になった。
「卒業まであと半年、毎日ドキドキしてるよ」
「ずっと笑ってりゃいいんだよ―――俺のとなりで」
恋人同士になった、ところで何かが変わるのか。これが偽物の恋人同士、であったのなら中々何も変わらなかったのかもしれぬ。しかし二人の関係は本物。だからこそ、何も意識しなくても。二人の関係は少しずつ、動き出すのだ。
自分の事を袖にし続けてきた罰、だとちょっと振り回してしまって。でもその心の根底にあるのは恋人同士としてのときめき。
何気ない表情の変化、恋人同士になってからの変化がよく見える。笑顔が増えた、それが何よりも嬉しくて。ずっと笑っていて欲しくて。
友人であるカヨコと西やんに温かく見守られ。祐希の妹である奈央が時に目を輝かせながらもサポートし、その傍らで疎遠だった幼馴染、宗助とのラブコメが始まりそうになって言ったりして。
ムードは中々生まれぬ、けれどそれでもいい、と。例えば人気の映画よりも、自分達の見たい映画を、というように自分達のペースで。
「なんでもない場所が、思い出できらきらしてるの。最初から綺麗な場所より、ずっと素敵だよ」
見たことのないキラキラも、見てみたい。だけど自分達にとっては何気ない景色でも。そこにあるのは無数の、二人で積み上げてきた思い出。そこにある思い出にまた一つ思い出を重ねていく。その方が素敵で幸せ、と。変わりゆく想いの中、思い出を重ねて。「幼馴染」から「恋人」へ、満開の思いでステップアップしていくのだ。
心のオタクな部分が砂糖を吐きだし尊死するかのよう。そんなこそばゆく、頬が厚くなるような甘さに満ちているこの作品。エモさでいい意味で死んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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