読書感想:隣のクーデレラを甘やかしたら、ウチの合鍵を渡すことになった2

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前巻感想はこちら↓

読書感想:隣のクーデレラを甘やかしたら、ウチの合鍵を渡すことになった - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻でまるで運命に導かれるかのように出会い、お互いに信頼できる、友達以上恋人未満な関係で落ち着いた訳である、主人公の夏臣とヒロインのユイ。だがしかし、この二人はまだ付き合ってはいない、どころか恋の自覚すらも在りはしない。そんな二人は今巻でどうなっていくのか。その答えは今から語っていくが、少しずつ丁寧に積み重ねていくのがこの作品の特色であると言うのは、前巻を読まれた画面の前の読者様であればご存じであろう。

 

「ありがと、夏臣」

 

「ユイのお願いじゃ仕方ないからな」

 

学校帰り、偶々立ち寄ったスーパー。今日の晩御飯の献立を提案し、彼女のお願いならと受け入れ。既に二人で晩御飯を食べる事が自然となっている、その中でクーデレラと呼ばれる彼女が自分だけに見せてくれる顔がある。

 

「え? あんなに仲良いのに付き合ってないの? 何で?」

 

プライダルプレーヤーのバイトで訪れた結婚式場、偶々出会った初対面のカメラマンにそう勘違いされるほどに仲良くて。けれど二人の心、まだ恋の芽は萌芽せず。

 

 そんな二人を待っているのは、いつも通りの何気ない日常、に見えてちょっとだけ違う日常。二人の背を押すように、日常は少しずつ色を変えていく。

 

ある時は夏臣の部屋の風呂が壊れ、ユイの部屋でお風呂に入る事になり逆ラッキースケベが起きたり。

 

またある時は調理実習でユイが弄られ、思わず距離感に困ったり。夏臣の親友、慶に助けを求められて上ったステージ、自分達と同じように音楽に熱中するサックス奏者、湊と友誼を結んだり。

 

 少しずつ、また一つずつ。大切な日々は重なっていく。そんな中、ユイの心の中、恋の芽は萌芽の予兆を見せ始め、彼女に変化を齎していく。

 

「好きって、どういう気持ちのことを言うのでしょうか」

 

貰ってばかりの自分に納得できなくて、都合よく「恋」とは呼びたくなくて。けれど、誰にだって胸を張って、特別な人だという事は言える。それは確か。

 

「・・・・・・私には、ないものばっかりだから」

 

道が分かれるという想像だけで胸が苦しくて。他の女性と連絡を取っているだけで嫉妬しちゃったりして。

 

「私も夏臣じゃなかったら、こんな風には甘えられなかったと思う」

 

だけど、彼だからこそ言えた。彼だからこそ手を伸ばせたし伸ばしてくれた。だからこそ、自分はここにいたい。

 

「来年もまた、夏臣と花火を見れるかな」

 

「来年もまた、一緒に来よう」

 

そして、運命の日。二人だけのデート。空に花火の大輪の花が咲き誇る中。全ての歯車は噛み合い、恋に落ちる音が鳴る。そう、今まさに恋の種は萌芽し、空へ向かい伸び立った。この瞬間、二人は正に関係を一歩進めたのである。

 

友達以上恋人未満、一歩進んで両片思い。一足飛びじゃなく、まるでじっくりと煮詰めるかのように。余計な味を加えるのではなく、素材の味を深める事で引き出すように。

 

そんな、丁寧に大切な日々を積み重ね、少しずつ心を通わせる。だからこそこの作品は甘く面白い。正に一種究極のエンターテインメントなのである。

 

前巻を楽しまれた読者様、やっぱりラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:月刊ニュータイプ 2021年6月号(忘れさせてよ、後輩くん第三回)

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前回感想はこちら↓

読書感想:月刊ニュータイプ 2021年5月号(忘れさせてよ、後輩くん第二回) - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

さて、春アニメもそろそろ折り返しであり様々なアニメで後半へとつながる動きが出てき始めている頃かもしれないが、皆様今期のアニメは楽しまれているであろうか。私は楽しんでいる。

 

ついでに一つ質問であるが、画面の前の読者の皆様はシン・エヴァンゲリオンはもうご覧になったであろうか? まだ観ていないという読者様がおられるのなら、今月号は是非観賞してから読んでいただきたい。ネタバレがバリバリなので。ではここから、「忘れさせてよ、後輩くん」の第三回についての感想を描いていきたいと思う。

 

(以下感想↓)

 

さて、「陽炎の夏」が今まさに始まろうとしている。では、もし恋心に決着を付けなければどうなってしまうのだろうか? もし、死んだ人の面影を追い求め行き着く先まで行ってしまったのならば、どうなってしまうのだろうか。

 

その答えは自らの死、という哀しき終わり。夏梅の母は、精神科医の端くれとして今までに見てきた症例の最後を語る。「陽炎の夏」、それが訪れた患者は最後は病院に来なくなる。最後は愛する者の面影を追い、自らの死を選んでしまう、と。

 

【あの人がいたような気がしたんだけどな】

 

春瑠のSNS、そこに載せられたのは何も映っていない、只の風景写真。普通であれば嬉しい筈だった更新も、その一言が付いてしまうと胸をかき乱す。確かに、もう始まってしまっているのだ。夏梅の手の届かない所で、春瑠は確かに陽炎の夏に蝕まれ始めている。

 

「終わった初恋を忘れさせてよ・・・・・・後輩くん・・・・・・」

 

今も尚、春瑠の心を苛む兄の事は嫌いだ。けれど、そんな兄の偽物にしかなれぬ自分は一番嫌いだ。だけど、そんな自分へと春瑠は縋りつく。その心にあるのは、一体誰への思いなのか。

 

現状維持は許されぬ、それはもう分かっていた。だけど、この先は本当の意味で立ち止まれない。彼女を生かし、彼女と共に未来へ進む為にはその心を奪うしかない。

 

なれば、一体どうすればよいのか? 兄の偽物にしかなれぬ彼は、どうすればよいのか?

 

今は未だ、在りし日の幻影に幼稚な言葉をぶつける事しか出来ない彼。来月には、彼も少しだけ前に進めるのだろうか。

 

 

 

読書感想:となりの彼女と夜ふかしごはん2 ~ツンドラ新入社員ちゃんは素直になりたい~

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前巻感想はこちら↓

読書感想:となりの彼女と夜ふかしごはん ~腹ペコJDとお疲れサラリーマンの半同棲生活~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、今巻の感想を書いていく前に私は一つ、画面の前の読者の皆様に残念なお知らせをしなくてはいけない。どうやらこの作品は、ここで「一旦」の完結であるらしい。残念無念の限りである。もっと優勝したかった。そう悔いてしまうのは私だけではないと信じたい。けれど、敢えて私は作中の言葉を借りてこう言いたい。へばまんず、秋田の方言でまた会おう、と。

 

では今巻の中心となるのは誰か。それは表紙からもうお分かりであるかもしれない。前巻で主人公であるマコトに絶対零度の態度を取り続けた後輩、文月である。

 

一年次が経過したことを祝う飲み会。自分を貶されるばかりかマコトの事まで貶され。同僚であるネネと売り言葉買い言葉で誓ってしまったのは、次の昇格試験で一位となる事。文月の事を考えると、奇跡でも起こさなければ無理。そう言っても差し支えない無理難題。

 

「・・・無理ですよ」

 

話を聞こうとするマコトが聞いたのは、今まで聞いた事もない彼女の弱音。

 

 その弱音から始まり、マコトは文月の今まで知らなかった内面へと踏み込み、目撃していく。自分に対してだけ冷たかった彼女が一体何を考えていたのかを。

 

「―――私、正しさ以外はなにもないんです」

 

そこにいたのは、ツンドラな外皮をはぎ取った中にいたのは。ただ、正しさに従いその選択のままに生きてきたからこそ追い込まれてしまった彼女。何もかもを背負ってしまう、不器用に過ぎるが故に生きづらい等身大のカノジョ。

 

「誰だってそうなんだよ。文月さんだけじゃない。みんなが同じ不安を抱えてる。俺だってそうなんだから」

 

 そんな彼女に対しマコトは真摯に向き合い告げる。自分だって同じ、皆だって同じ。けれど皆違って皆いい。皆それぞれいいところがあるからこそ働けているんだと。

 

初めて聞いたマコトの説教。同時に知った、仲の良かった退職してしまった同期、ヒカリが隠していた思い。文月の事が大切だからこそ、秘密にしなければいけなかった思い。

 

全てを受け取り、溢れる水流の中に目を浸し。ようやく目覚めた文月は、今までとは違う様子で勉強に仕事に邁進する。

 

そんな彼女に奇跡が舞い降りぬわけがあるか? 否、そんな事は無い。神様は基本的に意地悪だし残酷だけれど、努力した者のみが掴める可能性があるのは自明の理なのだから。

 

働く者達の悲哀と懊悩、けれどその中に確かにある熱い感情が腹が減る料理に彩られ燃え上がる今巻。

 

 

前巻を楽しまれた読者様、お仕事系ラブコメがやはり好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

 

 

読書感想:浮遊世界のエアロノーツ 飛空船乗りと風使いの少女

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天空に浮かぶ島、そう聞いて画面の前の読者様は何を連想されるであろうか。竜の巣の中に浮かぶ超古代の遺産たるラピュタだろうか。それとも、多種族が暮らす島、ライゼルクだろうか。

 

何にせよ、空に浮かぶ島、そんな単語に浪漫が詰まっているのは恐らく間違いない。浪漫が擽るのは何か。それは冒険心。子どもの頃には、向こう見ずになるほどに持っていたけれど、いつの間にか失っていた感情。そうではないのだろうか。

 

この作品においては、そんな心くすぐられ踊る浪漫が詰め込まれている。連作短編という形を取るからこそ、章ごとに違った面白さがあるのである。

 

 そんな冒険の中へと、今まさに踏み出していく少女の名はアリア(表紙中央)。空に浮かぶ孤島で両親の帰りを待ち続ける記憶喪失な少女。冒険へと連れ出す青年の名は拍人(表紙右)。飛空船と呼ばれる空を駆ける船で交易を行いながら、探し物を探して当てのない旅を続ける青年である。

 

大地が一度バラバラとなり、空に浮かぶ島のみが存在する世界。まるで引き寄せられるかのように出会い、ちょっとしたぶつかり合いもあって。拍人に同道し、両親を探す旅へと出て。アリアは様々な島でそこに生きる人々達の営み、思いに触れていく。

 

大切にされたものに精霊が宿る島。そこには精霊が抱いた想いが故に引き起こした事件があった。

 

人々を収容する監獄がある島。そこには真実を秘密にしながら、誰かの幸せを願う者がいた。

 

同じ時間を繰り返す島。そこには幾度繰り返しても変わらぬ、島を愛する者の切なる願いが木霊していた。

 

浮遊島、それこそはそれぞれ一つの世界。違う世界を巡る中、アリアは忌まれ心を閉ざす事になった切っ掛け、世界を変える「干渉力」の使い方を知り、「風使い」として目覚めていく。

 

時に笑い、時に微笑み。時に涙し。その旅の先、アリアは拍人と共に訪れた島、七色の雲海の中に眠る、願いに応じた代償の代わりに願いを叶える木のある島へと辿り着く。

 

 その島で知る、両親の思い。確かにこの島を訪れていた両親が秘密にしていた真実。そこに込められていたのは、只一人の娘に幸せになってほしいと言う「親」の思い。

 

「そんなのって、ないよ」

 

全てを取り戻したアリアの目の前、拍人は再び只一人で旅に出ようとする。彼女の中に芽生えるは苦しさ。大切なものをたくさんもらった、けれど何も返せていないという不公平な感情。

 

「わたし、目標ができたの」

 

そして拍人の隣に並んだ彼女は夢を叫ぶ。彼と言う、ぶっきらぼうだけれどお人よしな相棒と一緒だからこそ見つけ出せた願い。

 

 世界が違えば人も違う、見えるものも違う。そんな当たり前の心躍る面白さの中、成長の温かさが光っているこの作品。

 

未知の世界を見てみたい読者様、連作短編集が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書雑記:発売日前恒例、新刊紹介なお話。GA文庫編。

こんばんは。ゴールデンウィークも終わり、次の祝日は七月後半。という事実に若干凹みつつあるもそもそも会社で決められた休日でない限り祝日もお仕事という事実に気付きまぁいいかとなっている真白優樹です。さて本日はちょっと早めですが、今週末発売予定のGA文庫の新刊の中から、このブログでピックアップ予定の四作品についてお話したいと思います。

 

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・パワー・アントワネット2

 

・著:西山暁之亮先生 絵:伊藤壬生先生

 

ではまずはこちらの作品です。・・・はい、まさか続くと思ってなかった読者様、恥ずかしがらずに手を上げてください。私もその一員ですので。 今巻ではアニキ系のナポレオンと結婚を巡りバトルを繰り広げるとの事で、一体どういう事なのか。筋肉踊る戦いを楽しみにしたいと思います。

 

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カンスト村のご隠居デーモンさん2 ~拳聖の誓い~


・著:西山暁之亮先生 絵:TAa先生

 

二作品目はこちら。パワー・アントワネットの続刊と同時発売、こちらの方が受賞作品。その続刊です。今巻では村の一員、ブルドガングの過去が語られるとの事で、どんなお話となるのか。楽しみです。

 

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・痴漢されそうになっているS級美少女を助けたら隣の席の幼馴染だった4

 

・著:ケンノジ先生 絵:フライ先生

 

三作品目はこちら。今巻では学園祭に向けての映画撮影が始まると共に、姫奈の秘密がバレそうとの事。果たして、その秘密が判明してしまった時に二人の関係はどうなるのか。楽しみですね。

 

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・ひきこまり吸血姫の悶々5

 

・著:小林湖底先生 絵:りいちゅ先生

 

最後の作品はこちら。今度は神聖教との対決、皇帝不在の危機の中国家存亡の危機との事で、ひきこまり史上最大の一大事ですが果たしてコマリはどう立ち向かうのか。楽しみにしたいですね。

 

以上、期待の四作品でした。ではまた発売されましたら読んでいきましょう。

 

読書感想:グリモアレファレンス2 貸出延滞はほどほどに

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前巻感想はこちら↓

読書感想:グリモアレファレンス 図書委員は書庫迷宮に挑む - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、この作品のヒロインは今巻の表紙の一員を務める三火である、との事である。が、前巻では少し影が薄かったかもしれないのは前巻を読まれた画面の前の読者の皆様であればご存じであるかもしれない。では今巻では影が薄いのか、というとそうでもなく。ヒロインとしての面目躍如と言える活躍が光っているのである。

 

今巻は舞台作成と状況整理であった前巻とは違い、何本かの短編の集まりという連作短編集の形を取っている。その中で描かれるのは、外部利用者とのかかわりと、尊達のいつもの日常。時に貸出延滞を犯した者達の元を訪ねたり、時に年頃の男子の夢、猥本(要はエ〇本である)を求めて男子たちだけで合同部隊を編成して迷宮に潜ったり。

 

 まるでこれがいつもの日常だと言わんばかりに繰り広げられる、賑やかでもあり騒がしくもある日常。そんな中、迷宮図書館は新たな顔を見せ始め、明確な意思を見せ始める。

 

魔本に帰ってこいと告げるかのように、迷宮図書館からは貸出延滞されている本の元へと繋がり。迷宮図書館の一部である魔導書は貸し出され、迷宮になくとも魔本は貸し出された先で迷宮を創り出す。

 

 そんな魔導書と迷宮にとって、隠されたすべてを暴こうとする尊達はどう見えるか。その答えは簡単であろう。誰だって秘密にしている者を悉く覗かれるのは気分が悪い筈。故に迷宮は尊を「邪魔者」、「厄介者」と判断し明確な敵意を以て最強の刺客を送り込むと言う形で牙を剥く。

 

ヌシなんていない筈だった第六層。だが、そこに現れたのは尊とその仲間達が探索に訪れた時のみ現れるヌシ。超反応かと言わんばかりの神通力を自由に用い、達人級の拳法で襲い掛かってくる無貌の超人。インド哲学より生まれし、神にも近き圧倒的格上の相手。

 

ここで諦めれば、隊を解散してしまえば邪魔される事もないかもしれない。障害を取り払えるかもしれない。

 

「こいつが、僕達の道を塞ぐ邪魔者だ」

 

「なにがなんでもはっ倒すぞ」

 

 だが、自分はまだまだ彼等と共に歩きたい。叶えたい願いだってある。ならば、超人がなんだ。障害がどうだ。自分達にとってしか益が無い、だから誰の手も借りられない。それがどうした? 立ち塞がるならぶっ飛ばす。再び尊の心の中、あの日のように全てを魅了する炎が燃え上がる。

 

今はもう一人じゃない、頼れる仲間達だっている。自分達は三火のような強者にはなれない。だが、協力と連携、個体ではなく群体として戦いに挑むのであれば可能性は引き寄せられる。

 

前巻より規模は小さくとも、密度と熱さは更に上がった死闘。

 

「下っ手くそな督促しやがって。邪魔するなら、何度でも踏み砕く」

 

その先、戦いを生き抜いた尊へと迷宮は褒美を与える。求めよさらば与えられん、とでも言うかのように。

 

前巻よりもコメディチックに、けれど探索と死闘の熱さと面白さは変わらぬどころかギアを上げる今巻。

 

前巻を楽しまれた読者様、探索ものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:恋は双子で割り切れない

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 呼吸を止めて一秒、それは某有名アニメの主題歌の一節である。それはさておき、双子ヒロイン、それはどんな存在であろうか。そこに幼馴染という要素を絡めたら、一体どんな物語が展開されるのであろうか。

 

双子であっても、同じじゃない。けれど同じところもある。例えば、好きになった人とか。

 

さて、ここから本筋の感想に入っていくわけであるが、現在絶賛心の中が感情の大嵐に見舞われているので、読みにくい部分があるかもしれないがご容赦願いたい。

 

6から始まり15。中途半端な長さのその定規は、今まで積み重ねてきた時間の長さを表すもの。

 

主人公である純が六歳の時に引っ越してきてはや約十年。お隣の家である神宮寺家とは今まで綿々と、家族ぐるみの交流が続いていた。

 

 それは、子供達もまた同じ。スポーツ好きの活発乙女少女、双子の姉の琉実(表紙左)。父親の幼い頃からの影響でサブカル好きな小悪魔、双子の妹の那織(表紙右)。人生の半分以上同じ時間を過ごすうち、惹かれ合っていくのは自然な事であったのかもしれない。

 

最初は琉実から好きになった。観測する内に那織からも好きになった。純もまた、那織に対抗意識を燃やすうち、いつしか初恋の感情を抱いていた。

 

 だが、その関係は琉実の告白、そして唐突なお別れにより結ばれて解ける。どこか宙ぶらりんな関係になっていく。

 

姉でありたいから、と身を引いた琉実。呪いをかけられたようにその言葉に従う純。何となく察しながらも、告白を受け入れた那織。

 

落ちた涙も見ないふりで終わらせた恋心。唐突に終わらされて燻る恋心。そして今、まさに始まったばかりの恋心。

 

琉実にとって純も那織も手のかかる弟妹。純にとっては二人とも大切。那織にとって純は「生」。

 

 幼馴染だからこそ、今まで長い時間共に居たからこそ、ここまで拗れ捻れてしまった、等身大の、ドロドロめいた思春期の感情。だが、終わった筈の恋は終われない。当然だ。簡単に終われたら苦労なんてしやしない。

 

「だから、すっきりするまで泣いていい」

 

部活中にケガをして塞ぎ込んで。けれど、またあの日のように傍にやってきてくれて。悪いとは分かっていても、どうしようもなく縋りついてしまう。甘えてしまう。捨てた筈の恋心がまた叫ぶ。好きだと。

 

「ごめんね。私、純君と付き合ってるつもりはないんだ」

 

 それを見て、何も思わぬ那織であるわけもなく。純の初恋の相手が自分である事も知り、それでも尚。大人のキスと共に彼女は、自ら憎まれ役を買おうとも純に告げる。全ての関係性をリセットする一言を。

 

自分の小悪魔の仮面に隠れた思いを見せずに、幼馴染だからこそ言わずとも伝わっていると思っていたと言う盲点をついて。彼女は、三人の関係をありふれた三角関係へと落とし込み、新たな物語を生み出そうとする。

 

 そして彼女は、姉である琉実へと言うのだ。勝手に渡されて納得できるわけじゃない。だからこそ戦おう、真剣勝負をしようと。

 

そう、例え三人が純という惑星の周りをまわる衛星のような関係であっても。連なって回る三連星という関係であっても。引き合う重力はそう簡単に切れる訳じゃない。もう簡単に変えられる関係性じゃない。純の心はもう決まっている。ステイルメイトの盤面のように動かせる部分なんてありゃしない。

 

「確かに、もう少し気楽に考えた方がいいのかもな」

 

 だからこそ、改めてもう一度。今度こそ答えを見つける為に。

 

ちょっと捻くれていて、まるでダチュラのように毒であり。けれど離れがたい。今まで同じ時間を過ごしてきたからこそ、三人のラブコメは甘く。正に至上、極上と言っても過言ではない。

 

ただ甘いだけじゃない、甘酸っぱい。まるでラブコメの原初の扉を開き、ラブコメの原初の卵の中に還るかのように。だからこそこの作品は、はっきり言ってしまおう、最高だ。

 

私個人としての所見であるがハッキリ言ってしまいたい。この作品には長寿と繁栄が相応しい。電撃文庫の新たなラブコメの旗頭になるに相応しい。だからこそ私は万感にして万雷の拍手を送りたいし、この作品の魅力が多くの読者様に伝わってほしい。

 

全ての幼馴染好きの読者様、全てのラブコメ好きの読者様、寧ろ全てのラノベ好きの読者様にお勧めしたい。

 

絶対に貴方も満足できるはずである、と私は太鼓判を押したい。

 

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