さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は夜食は食べられる方であろうか。深夜の夜食と言う胸を擽られる禁断の響きを前に、貴方は我慢することはできるであろうか。
しおあまこと塩対応の佐藤さんが俺にだけ甘い。その作中の登場人物にも一抹の縁があるとある大手スーパー。その文具部門の新任マネージャーとなった青年、ヒロトは仕事に疲れ憔悴しきっていた。
その理由とは。画面の前の読者の皆様も覚えのある方はおられないだろうか。上と下の板挟み、中途半端に責任のある役職故の苦悩と苦労というものである。
上の立場である嫌味な上司、柴田からは左遷を仄めかされ嫌味を言われ。下の立場である後輩、文月からは蛇蝎の如く嫌われ。
唯一の楽しみは遅くの帰宅後、つまみを作って酒を飲む事。そんな彩の無かった生活に色を齎す出会いがヒロトの元に訪れる。
その色を運んできてくれた彼女、その名はカンナ(表紙)。ヒロトの隣の部屋に住みながらも今まで交流の無かったしょっちゅう腹ペコな女子大生である。
小さな不幸に見舞われ、家に帰れなかったカンナを家にあげ。
「し、深夜に揚げ物は犯罪なんですよ!」
いつも通りおつまみを作れば、精一杯の声で文句を言われ。
「こんなに美味しいなんて優勝ですぅ・・・・・・」
だけど、ヒロトの料理を食べた途端。まるで即落ち二コマかとでも言わんばかりにカンナの顔には笑顔が溢れ。
今までは、おかえりなさいを言ってくれる人もいただきますを言ってくれる人もいなかった。だけど初めて出来た、隣で一緒にお酒を呑めておつまみを食べれる人が。
そしてカンナの視点からヒロトにアドバイスが授けられた時、全てはどこかへ回り出す。
そう、彼が間違っていないなんて誰が言ったのだろう?
今まではいなかったのだ。間違いを受け止め正してくれる人も。自分の目でしかみていなかった、だからこそ気付けなかった、自分の過ちに。
「―――俺は、文具売り場のマネージャーだ!」
過ちに気付けたのなら、後は踏み出すだけ。その心に迷いはなく。
「・・・・・・ようやく、恩返しが出来ました」
それでも頑張りすぎて倒れてしまった時。カンナは恩返しとばかりに、ヒロトを献身的に支え。
この作品は言うなれば、仕事に疲れた大人達へ送るべき作品である。間違えたまま突き進んできてしまった青年が、お隣の女子大生と二人三脚で再生の道を歩み出すお話である。
そんな何処か温かい道を彩るのは、肉巻きアスパラの一本揚げや海老と牡蠣のアヒージョを始めとする、夜に見てはいけない料理の数々。
かのしおあまと比べると、大人のほろ苦さがあり、だけどその代わりに数々の魅力的な料理と絆と再生の温かさが詰め込まれ。
お腹を減らしたい読者様、女子大生が優勝するさまに癒されたい読者様、心を温めたい読者様にはお勧めしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。