読書感想:恋は双子で割り切れない

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 呼吸を止めて一秒、それは某有名アニメの主題歌の一節である。それはさておき、双子ヒロイン、それはどんな存在であろうか。そこに幼馴染という要素を絡めたら、一体どんな物語が展開されるのであろうか。

 

双子であっても、同じじゃない。けれど同じところもある。例えば、好きになった人とか。

 

さて、ここから本筋の感想に入っていくわけであるが、現在絶賛心の中が感情の大嵐に見舞われているので、読みにくい部分があるかもしれないがご容赦願いたい。

 

6から始まり15。中途半端な長さのその定規は、今まで積み重ねてきた時間の長さを表すもの。

 

主人公である純が六歳の時に引っ越してきてはや約十年。お隣の家である神宮寺家とは今まで綿々と、家族ぐるみの交流が続いていた。

 

 それは、子供達もまた同じ。スポーツ好きの活発乙女少女、双子の姉の琉実(表紙左)。父親の幼い頃からの影響でサブカル好きな小悪魔、双子の妹の那織(表紙右)。人生の半分以上同じ時間を過ごすうち、惹かれ合っていくのは自然な事であったのかもしれない。

 

最初は琉実から好きになった。観測する内に那織からも好きになった。純もまた、那織に対抗意識を燃やすうち、いつしか初恋の感情を抱いていた。

 

 だが、その関係は琉実の告白、そして唐突なお別れにより結ばれて解ける。どこか宙ぶらりんな関係になっていく。

 

姉でありたいから、と身を引いた琉実。呪いをかけられたようにその言葉に従う純。何となく察しながらも、告白を受け入れた那織。

 

落ちた涙も見ないふりで終わらせた恋心。唐突に終わらされて燻る恋心。そして今、まさに始まったばかりの恋心。

 

琉実にとって純も那織も手のかかる弟妹。純にとっては二人とも大切。那織にとって純は「生」。

 

 幼馴染だからこそ、今まで長い時間共に居たからこそ、ここまで拗れ捻れてしまった、等身大の、ドロドロめいた思春期の感情。だが、終わった筈の恋は終われない。当然だ。簡単に終われたら苦労なんてしやしない。

 

「だから、すっきりするまで泣いていい」

 

部活中にケガをして塞ぎ込んで。けれど、またあの日のように傍にやってきてくれて。悪いとは分かっていても、どうしようもなく縋りついてしまう。甘えてしまう。捨てた筈の恋心がまた叫ぶ。好きだと。

 

「ごめんね。私、純君と付き合ってるつもりはないんだ」

 

 それを見て、何も思わぬ那織であるわけもなく。純の初恋の相手が自分である事も知り、それでも尚。大人のキスと共に彼女は、自ら憎まれ役を買おうとも純に告げる。全ての関係性をリセットする一言を。

 

自分の小悪魔の仮面に隠れた思いを見せずに、幼馴染だからこそ言わずとも伝わっていると思っていたと言う盲点をついて。彼女は、三人の関係をありふれた三角関係へと落とし込み、新たな物語を生み出そうとする。

 

 そして彼女は、姉である琉実へと言うのだ。勝手に渡されて納得できるわけじゃない。だからこそ戦おう、真剣勝負をしようと。

 

そう、例え三人が純という惑星の周りをまわる衛星のような関係であっても。連なって回る三連星という関係であっても。引き合う重力はそう簡単に切れる訳じゃない。もう簡単に変えられる関係性じゃない。純の心はもう決まっている。ステイルメイトの盤面のように動かせる部分なんてありゃしない。

 

「確かに、もう少し気楽に考えた方がいいのかもな」

 

 だからこそ、改めてもう一度。今度こそ答えを見つける為に。

 

ちょっと捻くれていて、まるでダチュラのように毒であり。けれど離れがたい。今まで同じ時間を過ごしてきたからこそ、三人のラブコメは甘く。正に至上、極上と言っても過言ではない。

 

ただ甘いだけじゃない、甘酸っぱい。まるでラブコメの原初の扉を開き、ラブコメの原初の卵の中に還るかのように。だからこそこの作品は、はっきり言ってしまおう、最高だ。

 

私個人としての所見であるがハッキリ言ってしまいたい。この作品には長寿と繁栄が相応しい。電撃文庫の新たなラブコメの旗頭になるに相応しい。だからこそ私は万感にして万雷の拍手を送りたいし、この作品の魅力が多くの読者様に伝わってほしい。

 

全ての幼馴染好きの読者様、全てのラブコメ好きの読者様、寧ろ全てのラノベ好きの読者様にお勧めしたい。

 

絶対に貴方も満足できるはずである、と私は太鼓判を押したい。

 

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