読書感想:浮遊世界のエアロノーツ 飛空船乗りと風使いの少女

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天空に浮かぶ島、そう聞いて画面の前の読者様は何を連想されるであろうか。竜の巣の中に浮かぶ超古代の遺産たるラピュタだろうか。それとも、多種族が暮らす島、ライゼルクだろうか。

 

何にせよ、空に浮かぶ島、そんな単語に浪漫が詰まっているのは恐らく間違いない。浪漫が擽るのは何か。それは冒険心。子どもの頃には、向こう見ずになるほどに持っていたけれど、いつの間にか失っていた感情。そうではないのだろうか。

 

この作品においては、そんな心くすぐられ踊る浪漫が詰め込まれている。連作短編という形を取るからこそ、章ごとに違った面白さがあるのである。

 

 そんな冒険の中へと、今まさに踏み出していく少女の名はアリア(表紙中央)。空に浮かぶ孤島で両親の帰りを待ち続ける記憶喪失な少女。冒険へと連れ出す青年の名は拍人(表紙右)。飛空船と呼ばれる空を駆ける船で交易を行いながら、探し物を探して当てのない旅を続ける青年である。

 

大地が一度バラバラとなり、空に浮かぶ島のみが存在する世界。まるで引き寄せられるかのように出会い、ちょっとしたぶつかり合いもあって。拍人に同道し、両親を探す旅へと出て。アリアは様々な島でそこに生きる人々達の営み、思いに触れていく。

 

大切にされたものに精霊が宿る島。そこには精霊が抱いた想いが故に引き起こした事件があった。

 

人々を収容する監獄がある島。そこには真実を秘密にしながら、誰かの幸せを願う者がいた。

 

同じ時間を繰り返す島。そこには幾度繰り返しても変わらぬ、島を愛する者の切なる願いが木霊していた。

 

浮遊島、それこそはそれぞれ一つの世界。違う世界を巡る中、アリアは忌まれ心を閉ざす事になった切っ掛け、世界を変える「干渉力」の使い方を知り、「風使い」として目覚めていく。

 

時に笑い、時に微笑み。時に涙し。その旅の先、アリアは拍人と共に訪れた島、七色の雲海の中に眠る、願いに応じた代償の代わりに願いを叶える木のある島へと辿り着く。

 

 その島で知る、両親の思い。確かにこの島を訪れていた両親が秘密にしていた真実。そこに込められていたのは、只一人の娘に幸せになってほしいと言う「親」の思い。

 

「そんなのって、ないよ」

 

全てを取り戻したアリアの目の前、拍人は再び只一人で旅に出ようとする。彼女の中に芽生えるは苦しさ。大切なものをたくさんもらった、けれど何も返せていないという不公平な感情。

 

「わたし、目標ができたの」

 

そして拍人の隣に並んだ彼女は夢を叫ぶ。彼と言う、ぶっきらぼうだけれどお人よしな相棒と一緒だからこそ見つけ出せた願い。

 

 世界が違えば人も違う、見えるものも違う。そんな当たり前の心躍る面白さの中、成長の温かさが光っているこの作品。

 

未知の世界を見てみたい読者様、連作短編集が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

浮遊世界のエアロノーツ 飛空船乗りと風使いの少女 (電撃文庫) | 森 日向, にもし |本 | 通販 | Amazon