読書感想:カルネアデス 3.空白の聖女と林檎の片割れ

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:カルネアデス 2.孤高の吸血姫と孤独な迷い猫 - 読樹庵

 

 さて、この作品の全巻までを読まれている読者様であれば、この匣庭が置かれている状況と、今から踏み込もうとしている混沌をご存じであろう。女王はもう死んでいる、それが前巻、エルの中に推測として残るも。最早匣庭の混沌は止められぬ。そしてエルとイヴ、種族を越えたコンビには出来ることは少ない。そんな訳で今巻もまた、より混沌へと突き進んでいくのだ。

 

 

―――喇叭は吹かれた。そろそろはじまる。 ―――もう、泣いても笑っても終わらない。

 

エルの見る夢の中、現れた女王を模した何か、が告げてくるのは謎の言葉。何かの刻限、それも恐ろしく逃れようのない災厄が近づいてくる予感。イヴもまた同じ夢を見ていたと知る中、人間族の実質支配者、「聖女」のジェーン・ドゥのお付きの少女、リリスが持ってきたのはそのジェーン・ドゥが失踪したという話。密室からの失踪、行き先として予想されたのは悪魔の長、「魔王」の城。護衛を依頼され行ってみるも、悪魔の街で囲まれて。そこで助けてくれた上級魔族、シュガーの手引きで魔王の城へ。

 

「もしかして五種族の代表、すべてが消えているわけ?」

 

だがそこには、魔王もジェーン・ドゥも、それこそ誰もおらず。そこへとやってきたノアから「始祖」の失踪も伝えられ。調べ直してみると、どうも五種族の代表全員が失踪したらしいという事実だけが判明する。

 

「本当に大切なのは冠なんだ。女王じゃない」

 

捜査を続ける中、夢と言う闇の中で告げられるのは見落として忘れていた真実。それを思い出し、しかし訪れる非常事態。悪魔が使役する魔物に洗脳され暴れる人間達。聖遺物により魔物は倒すも、エルが事態の元凶だとリリスに嘘をつかれ。更には帰還したジェーン・ドゥに高揚した者達が禁呪により怪物へと変わり、天使警察本部を襲撃する。

 

「最強で最高のバディだと、信じています」

 

解決のためにイヴを差し出そうとする署長を蹴り飛ばして、決着をつける為に進む。例え危険な真実だとしても、一人では孤独なだけだから。

 

「あなたは、私のものだと言っただろう?」

 

そう、孤独だから。だからそうはさせない、と。本心を明かしたリリスも協力し、ジェーン・ドゥの正体も明かされ激突が始まる中。共に死のうとする彼女へ明かされるのは本心。今まで大切な所を見てきたようで、実は見ていなかった、押し付けていただけの事実。

 

「だから、はじまるんだ」

 

そして最早、匣庭の安寧は何処にもなく。これより始まるのだ。カルネアデスの板を取り合うが如く、冠を奪い合う五つの種族の少女達の戦争が。

 

よりグロテスク、より醜悪な方向へ突き進む今巻。シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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