好きな事だけして生きていく、興味のある事だけして生きていく。それが出来たら苦労はしない訳で。そう願っていてもそれは中々できぬのは一つの事実である。 というか仮にそんな事が簡単に出来たら日本の機能は瞬く間にマヒしてしまうかもしれないが。それはともかく。例えばそんな生き方は確かに憧れるもの、かもしれない。例えば私だったらラノベを読む事で稼いで生活が出来るなら、とてもいいかもしれない。
それは実際に言い換えるならば「好き」を仕事にすると言う事なのかもしれない。だけどそれは果たして望ましい事なのだろうか。それを仕事にして、好きな事を嫌いになってしまうとしたら、それは望ましくない事であろう。ならば、好きを仕事にしない方がいいのかもしれない。この作品はそんな、「好き」と「興味」に向き合うお話であり、「書きたいもの」と「書くべきもの」に纏わるお話なのだ。
小さな頃から興味のままに、趣味のままに生きてきた少年、樹。その趣味は、小説を書く事。ネット上では発表しているも別にプロを目指そうと言う意識はなく。今は自分が魔改造した部活、通称「超文芸部」で友人である修二と幼き頃からの付き合いである藤袴を振り回しながら小説を書いていた。
「わたしがあなたをプロ作家デビューまで導いてあげる」
「興味ないよ」
そんな彼へと声をかけてきたのは、今年外部性として入学したばかりの後輩、千夏(表紙)。エンタメ文芸界の女帝である母親と俳優の父の間に生まれ、自身もまたとある新人賞で華々しくデビューした小説家。 彼の小説にきらりと光るものを感じた彼女は、彼をプロ作家へ導こうと声をかけるも、樹は興味ないとバッサリ断ってしまう。
「空木が書く小説の、ファンなの・・・・・・!」
「・・・・・・ずっと憧れてたもん」
が、しかし。何故か千夏は超文芸部にまで入部して追ってきて。部員の意見は聞かなければいけないという規則を盾に意見を述べるも、興味最優先の樹の気持ちを揺らす事は出来ず。 その根底にある思い、いつの間にか芽生えていた「好き」という気持ちを燃やしながら。 彼がふと思いついたやりたい事のために、鯛を釣りあげてきて。
「こんな気持ちがあったなんて、いちばん楽しかった時期にも知らなかった!」
事故による密着、千夏の思い溢れる思わずのキス。その瞬間、まるで雷に打たれたかのように。樹の中に芽生えた思い、それは千夏を題材に書きたいと言う思い。その思いに乗せられ千夏が提案したのは、三幕構成を学ぶ為のデート。2人を登場人物に、ファンタジーのような設定を下地に。ちょっと荒唐無稽な設定を楽しみつつ、何故か流れるように付き合う事になり。
それは、今さらながら恋心を自覚した藤袴の心を打ち砕きぎくしゃくさせてしまい。彼女がいったん離脱する中、千夏は樹に自分の思いを明かす。 確執のある、正に小説家な破綻した性格の持ち主そのものな母親への怒り。あの女を上回れると、樹の才能を信じていると言う事。
「―――こんなの書けるんなら、最初から書けえっ!!」
そして千夏の推敲とプロデュースを受けた樹の小説は、確かに藤袴の心を揺らして。彼の心に新たな天啓と色彩を与えて行って。
「間違いなく、絶対に、俺のものなんだ」
その先に生まれていくのは、千夏の復讐の道具、ではなく樹の作品。正に彼が楽しんで書いた、彼が望んで生まれた作品。ここから二人の道は始まる、ように見えてやっぱり二人の信条は肝心なところで噛み合わないので、追いかけっこはまだ続くのである。
主人公とヒロインがお互いに振り回し合うドタバタの中、真っ直ぐな情熱と愛が溢れているこの作品。 作者様のファンである皆様、創作×ラブコメが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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