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読書感想:楽園ノイズ5 - 読樹庵 (hatenablog.com)
己すら火にくべて、何処までも自分勝手に身勝手に。前巻で立ち上がる事で垣間見えた真琴という人間の怪物性。その圧倒的なまでの音楽性は、いつか彼を孤独にしてしまうのだろうか。もしこのまま進めば、自ら孤独に突き進むようなものとなるのか。それはまだ分からぬけれど、新しい季節が始まるのが今巻なのである。
『丸くなったりすンなよ』
春となり、二年生へと進級した真琴達はコース選択が被った事もあり、全員同じクラスに配属され。更に伽耶も後輩として入学してきた事でバンドメンバーが全員集い、いよいよ本格始動していく中。作曲を依頼してきた拓斗から告げられたのは、真琴の曲が丸くなったと言う事。今までは何かを背負い、何かに縛られていたからこそ尖っている事が出来た。しかし、色々な事態が一変に解決してしまったからこそ、背負うものも縛るものも無くなり。それが結果として緩みに繋がってしまったのである。
緩んだのなら締め直せばいい、しかし締め直す方法が分からない。そして自分を信じて抱え込んだ多くの物が、真琴の背を急かし。結果的に彼は再び音を見失っていく。
そんな彼の元に訪れるのは、様々なイベント。今を迷う真琴にとっては眩しいばかりの世界。
部員勧誘の決め手に悩み、簡単に見えて難解な曲に挑む軽音部をプロデュースしたり。
「戦って、倒したいから」
新生活を始めた華園先生にピアノコンクールで勝負を挑む凛子を見届け、戦う事を宿命づけられた人種である彼女達の、戦う理由とぶつかり合いを目にする。
謎が深まるばかり、けれど確かに心に何かが溜まっていく。それは爆発の時を待っている。彼の元に運よくと言うべきか、訪れたのはコンサートのダブルブッキングと言う非常事態。
「ほんと救いようがない音楽バカだな」
それは、バンドに、そして真琴に亀裂が入る瞬間。・・・・・・それこそが真琴の、望んでいた切っ掛け。恩人の窮地も利用し逆境さえも己の糧として喰らい尽くす事を決め、身勝手な選択として己一人でライブの片方に出る事を決める。
観客が望んでいるものはここにはない、あるのは真琴只一人の音。だからどうした、僕の音を聞け、共に落ちていけと叩きつけるのは己の全てを詰め込んだ音。まるで只一人、孤独な航路へ踏み出す万華鏡のように。
自分の手で初めて手放し、孤独に挑み。そして感じるのはいつかの終わりの予感。いつか自分と言うノイズが楽園を壊すのかもしれない。きっと遠くない未来に。今、確かに変化の芽は蒔かれたのである。
第二楽章スタートと共に、何かの分水嶺を感じさせてくれる今巻。シリーズファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。