読書感想:楽園ノイズ2

f:id:yuukimasiro:20210503151151j:plain

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:楽園ノイズ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

I call you rock. そう初めに言ったのは誰だったであろうか。それはさておき、杉井光先生の作品の十八番の一つは音楽ものであるというのは共通認識の元質問させていただくが、先生の音楽ものの作品の登場人物の共通点とは何であると思われるだろうか。

 

その答えは各自、心の中で考えていただくとして、私なりに答えを言うのならば「全力」という事であると私は思う。後先なんて知った事か、今この瞬間しかない。そう言わんばかりに、音楽に熱中し、心の叫びを歌に込める。それこそが彼等の、生の熱を引き出しているのではないだろうか。

 

 お分かりであろう、この作品の主人公達、真琴達もまた、今と言う一瞬を音楽に捧げ駆け抜けている。だがしかし、彼等はまだまだ子供である。親の保護下から抜け出せず、先を往った者達の背はまだ遠い。そんな道半ばの存在なのである。

 

二学期になり新たな曲を模索し、バンドとして本格始動を始める事になった真琴達。だが、厄介事の神様は彼等を気に入っているのか、はたまた悪戯の対象として見ているのか。次々と厄介事は舞い込んでくる。

 

クラシックしか認めない、堅物に過ぎる凛子の母親がバンド活動を認めないと彼女を転校させようとしたり。

 

両親の関係と親戚の集合から逃げた詩月を保護した彼女の祖父が、真琴を見初めて査定を持ち掛けて来たり。

 

 取り巻く環境との激突、自分達の我を通すべくあがく彼女達。そして彼女達の助けとなるべく、音楽の力で立ち向かおうとする真琴。そんな中、真琴の女装が決定してしまった学園祭が迫る中、彼等はとある大物音楽プロデューサーとメジャーデビューをかけて、勝負する事になる。

 

その名はキョウコ・カシミア。・・・この名を聞いて、何処かピンときた読者様もおられるのではないか? そう、「彼女」である。かつて仲間達を率い、世界を革命すべく音楽の力で世界に喧嘩を売った「先輩」である。

 

彼女に、誰一人として欠ける事無く認めてもらうために。皆で共にプロになるために。けれど真琴は尻込みしてしまう。心の中にある、自分にはまだ分からぬ覚悟とプロと言う世界への怯えに。

 

『何百万人も相手になんてしてないよ』

 

 そんな彼へと、キョウコは先を往く先達として、先輩として。あの日と変わらぬ口ぶりで言う。大勢の為なんかに歌う必要はない。この歌を届けたい、誰か一人の為で良い。その一人が集まって、この世界は出来ているんだからと。

 

そして、その言葉に背を押され。真琴はかけがえのない空白を受け入れ歩き出す。今この時、始まりの場所から歩き出し。当てのない空白へと、仲間達と共に踏み出して。自分達だけの歌という銃弾を世界へと叩き込む。

 

そこにあるのは激情だ。迸るほどに熱い思いだ。そして、たった一人。誰かへと向けた唯一無二の思いなのだ。

 

その歌は紙面を越え心かきむしる爪となる。心に撃ち込まれる銃弾となる筈だから。

 

どうか刮目して見てほしい。更に深め高まり、狂おしいほど燃やしてくれる熱が此処に在る。

 

前巻を楽しまれた読者様、やはり音楽ものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

楽園ノイズ2 (電撃文庫) | 杉井 光, 春夏冬 ゆう |本 | 通販 | Amazon