読書感想:楽園ノイズ4

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前巻感想はこちら↓

読書感想:楽園ノイズ3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、この世界に於いては「解散」という言葉がある。例えばどこかのバンドが「音楽性の違い」という余人には分からぬ理由で解散してしまったとしよう。では、「解散」したらそこにあったすべての絆は失われてしまうのだろうか。そこにあった「音楽」は、全て失われてしまうのだろうか。今巻において注目するのであれば、「喪失」という部分に焦点を当てていくのが良いであろう。今巻はどんな巻なのである。

 

 

バレンタインデー、それは恋人達にとっては甘い季節であり、恋人未満の者達にとっては勝負の季節。しかし、そこを省いてみてみると、バレンタインデー辺りは年度末近く。新たな季節が始まる一歩手前、という段階である。

 

 真琴がPNOに復帰し、彼等を追いかける為に受験しようとしている伽耶と連絡を取り、親を説得すると言う名目で彼女の家に招かれたり。そんな中、真琴は「喪失」の危機にある音楽たちに出会っていく。

 

音楽スタジオのオーナーである黒川さん。彼女が以前所属していたガールズバンド、「黒死蝶」の復活の為にリーダーである蝶野が彼女を迎えに訪れ。黒川さんの心に燻っている筈の熱を見、何故彼女がバンドを離れたのかを考え。同じ舞台に立ち音楽の中でその真意を問いかけ。

 

音楽祭も間近となる中、華園先生が以前所属していた管弦楽団のヘルプに駆り出され。付け焼刃の練習で何とか一度、公演を乗り越えれど結局解散は避けられそうになくて。

 

 楽団の解散を免れるための鍵は、凛子と仲の悪い彼女の父親。父親を納得させる為、そして何より自分も演る側でありたかったと言う燻る思いのリベンジの為に。真琴は曲目の制定から始まり、自分にできる事を全力で為していく。そんな彼へと、もう君の企画だからと華園先生はタクトを託し。彼は指揮者として、演る側となって舞台へと上がる。

 

圧倒的な音のうねりを制御し支え、奏でるのは予想外の音。誰もが知らぬ、彼だからこその音。

 

「―――それで満足してもらえたなら、ほんとうにうれしいです」

 

 作曲者との徹底的な対話の中、何故そんな音を生み出したのか。それはひとえに彼のエゴ。誰もが二度見する程に、そして一度駆け出したのならば全てを巻き込み駆け出していくような圧倒的な、彼だけの音楽性故に。

 

前巻とはまた違った、圧倒的な音の中で駆け抜けていく。その先に待っているのは新たな季節、新たな音。

 

そこで待っている景色を、早く見たい次第である。

 

楽園ノイズ4 (電撃文庫) | 杉井 光, 春夏冬 ゆう |本 | 通販 | Amazon