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読書感想:楽園ノイズ4 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、この作品の主人公である真琴と彼の仲間である少女達は、音楽に生きる者である、というのは言うまでもない事である。しかし、人間は何か一つだけでは生きてはいけない。心の中にある芯、其れ一つだけでは生きてはいけぬ。だが、もしその芯が抜けるようなことがあれば、そこに残るのは何なのであろうか。彼等からもし音楽を取り上げてしまったのならば、そこに何が残るのであろうか。
伽耶の卒業の時期が迫る中、巡ってくる三月。それは出会いと別れの季節の一歩手前、新しい始まりの予感が高まる時。そんな時にも関わらず、真琴は何故か姉により女装させられ恋人のフリをさせられるという鬱き目に遭い。そして前巻のバレンタインのお返しの日であるホワイトデーの中、姉によりマカロンを買わされ、またも面倒な目に遭っていく。
「マコさ、たまには音楽の事忘れてみたら?」
自分達にとって必要となってきたマネージャーと言う問題も立ち塞がる中、朱音と一緒にアイドルプロダクションを訪ねたり、詩月の父親の浮気問題に直面することになったり、更には再び伽耶の家を訪ねたり、凛子と一緒にスタジオ付きシェアハウスの内見をしたり。次のステップアップに向けての準備を重ねる中、真琴の心に小さく、姉の言葉が突き刺さる。音楽の事ばかり考えている彼に、まるで魚の小骨の様にその言葉が残り続ける。
更に折しも運悪く。真琴にとっては大切な人である華園先生と何故か連絡がつかなくなり。自分の音が届かなくなり、まるで足元を急に突き崩されるように。真琴は自分の音を見失い、音を奏でられなくなっていく。
「音楽バカから音楽なくしたら、ただのバカじゃないですか」
「そんなの先輩じゃないです」
そんな彼へと、まるで熔けた鉄のような熱さと涙と共に、必死に伽耶が言葉を届ける。大切な人がいなくなったくらいで何だ、自分が知っている貴方は、もっと身勝手で自分勝手だ、と。
その言葉が、何もかも無くした真琴の胸に灯をくべる。何もかも無くした、だったら自分自身を燃やしてしまえばいい。固くなった指を解きほぐし、自分と言うものを切り取るように音にして。真琴は自分の音を再び見出していく。
純粋な音楽なんてありえない、だったら何をそこに託すのか。ならば自分の一部を託し、今だけは酔いしれると言わんばかりに。再び彼等の音が響き渡る中、新しく生み出されるのは彼女の為の歌。その歌は確かな出会いを、彼女との再会を運んでくる。
何かの始まりの季節、何かの変化の季節。だからこそここからが、更なる本番なのである。
シリーズファンの皆様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。