読書感想:悪逆大戦 地獄の王位簒奪者は罪人と踊る

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 さて、創作で時々地獄と言う物は題材になるが、地獄とは一体、どんなものであろうか。どこかの地獄の沙汰もお前次第のように、真の意味での悪人が堕ちる場所であろうか。それとも、何処かの鬼灯の冷徹のように、何処となく緩さに溢れた独特の文化が築かれている世界なのだろうか。その答えは様々あれど、地獄と言う物は時におっかない場所なのである。そういう意味においてはこの作品中で語られる地獄と言う物は、どんなものであろうか。その答えは是非、画面の前の読者の皆様の目で見届けていただきたい。

 

 

地獄、それは弱肉強食が掟たる血統が絶対の世界。その世界の王には数多の子あれど、第一子に近ければ近い程に位が高く、分け与えられる魔力も多い。故に、第八子までこそが絶対の力を持つ世界。

 

 かの世界に一人、潜入する影があった。その影の名は俊、又の名をルクレツィア・フォン・クライシスト・ブルーム。地獄の王の108番目の子供でありどう考えても雑魚な彼は何故、この地獄へと帰還したのか。

 

それは自身が愛した少女、櫻を救うため。立てこもり事件の中、正当防衛の果てに亡くなったというどう考えても地獄堕ちは相応しくない、にも関わらず地獄に堕ちた彼女を救うため。

 

しかし、その術を求め接近した第七子、「怠惰」なるネロ(表紙)はあっさりと告げる。彼女の魂は何故か地獄の最下層、永久牢獄よりも下に堕ちている、その判決は地獄の王でもなければ覆せぬと。

 

「ならば、俺が王になる!」

 

「貴様が、王となれ」

 

 救うために、いかな手段を取るべきか。答えは一つ、王となる事。折しも地獄の王の崩御により、最下位の子供が序列が上の子供達と順にぶつかり合うという継承戦が開かれようとする矢先。俊はネロと手を組み、彼女の代理として王位継承戦へと参戦する事を決意する。

 

絶対の高位たる王の子供達との顔合わせの矢先、堂々と宣戦布告を叩きつけ。その宣言に怒り、初戦の相手となるのは第三子、エンドレアス。暴君たろうとする彼が、順番を抜かし襲い来る。

 

 継承戦は如何に行われるのか。その答えは簡単。それぞれの魔力で地獄に囚われた罪人たちと縁を結び、契約を結び「駒」とし殺し合わせる事。三本勝負、しかしネロから魔力を借りた俊が呼び出せるのは「人間」の罪人のみ。

 

それでも負けられぬ。己の選択で罪人たちを呼び出し。俊は駒とし、戦いに挑んでいく。

 

「愛しい娘がいるのならば取り戻しなさい。全ての悪徳に奪われることのないように」

 

酒呑童子との激突に駒としたのは拷問の淑女。彼を最後に認め、彼女は何処か優しく彼の背を押し。

 

「自害はします。それが私の役目ですもの」

 

失楽園を齎す蛇と相対した二人で一人の罪人、己が犠牲を望む自己犠牲の究極形の少女はその在り様で俊へと勝利を齎し。

 

「お褒めにあずかり、光栄です」

 

蜘蛛の巣の主、犯罪界のナポレオンと相対したのは彼の右腕だった冷徹なる射手。彼の事を救うため、俊の願いを叶える為。射手は己の心を殺し、かつての主へと銃弾を叩き込む。

 

「勝てるさ。何人でも、殺してみせよう」

 

 一つの大番狂わせを成し遂げ、櫻の仇を討ち。だがこれはまだ始まりに過ぎない。まだまだ討つべき王の子達は残っている。だからこそ、まだ立ち止まれない。

 

非常にわかりやすく、その中に一本芯の通ったダークさが光るこの作品。ダークファンタジー入門として、相応しいと言えるかもしれない。

 

ダークファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

悪逆大戦 地獄の王位簒奪者は罪人と踊る (MF文庫J) | 綾里 けいし, ろるあ |本 | 通販 | Amazon