読書感想:創成魔法の再現者1 無才の少年と空の魔女 〈上〉

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 さて、画面の前の読者の皆様の中でTCG、所謂トレーディングカードゲームを嗜まれる読者様はおられるであろうか。嗜まれると言う読者様にお聞きしたい。貴方は幾つものデッキを使いこなすタイプであろうか。それともたった一つのデッキをどこまでも強化していくタイプであろうか。

 

 

と、いう前置きはさておき数多の一か、究極の一か。どちらの方が強くなるのか。その答えは中々に出ない、永遠の命題なのかもしれない。

 

 が、しかし。この世界に於ける魔法は後者である。舞台となるユースティア王国、ここでは「血統魔法」と呼ばれる血筋に魔法を埋め込む事で、生まれてすぐに強力な魔法を行使できるというシステムが支配し、「血統魔法」の優劣がそのまま人間としての地位を決めていた。

 

だが、想像してみてほしい。鍛錬もなく最初から強力な力を行使できるのなら、強さと引き換えに多様性を失うのならば。それは思考の硬化と腐敗を招きはしないだろうか。

 

そんな王国で侯爵家の子供として生まれ、多大なる才能を持ちながらも血統魔法に恵まれず追放された少年、エルメス(表紙左)。失意の底で襲撃を受け、死の淵にいた時。「空の魔女」と呼ばれる伝説の魔法使い、ローズと出会い。彼は彼女の弟子として拾われる。

 

 ローズは言う。血統魔法は「呪い」にしか過ぎない。その呪いを持たぬエルメスであれば、無限の可能性に満ちていると。五年の修業の後、王国に帰還したエルメスは最強へと至る可能性を持つ魔法を身に着けていた。その名は「原初の碑文」。誰にでも使える、「魔法の再現」を主な効果とする無限の可能性に満ちた魔法である。

 

帰還して早々、暴漢に襲われていた旧知の公爵令嬢、カティア(表紙右)と再会し。彼女の従者として雇われ、血統魔法を上手く使いこなせぬ彼女の力となりながら。日々を過ごす彼は、この国の歪みとその元凶の人物の起こす騒動に巻き込まれていく。

 

 かの元凶の名はアスター。この国の第二王子。彼の陰謀によりカティアは冤罪を着せられ囚われ。その救出の為、彼女を救うために駆け抜けるエルメスはかつての兄、クリスとの激突に挑む事となる。

 

同じ魔法をぶつけ合う二人、クリスの手元にあるのは古代の魔道具。力の差の中、窮地に追い込まれそうになるエルメス

 

「貴方の魔法はね、こうやって使うんですよ」

 

 しかし、窮地はあっという間に逆転する。その鍵は既にエルメスの手の中。血統魔法である「魔弾の射手」、その真の可能性である究極の万能性。

 

一つの戦いは終わった、しかしまだ何も終わっていない。トカゲの尻尾を切り落とすだけではいけない。本丸を落とさねばこの戦いは終わらない。

 

大いなる物語の始まりとなる、なろう的王道な面白さのあるこの作品。 きっちり丁寧に作り込まれているからこそ、真っ直ぐに面白い。

 

なろう系逆転ファンタジーが好きな読者様、王道の熱さが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。