さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方は世界の歴史的に英雄又は英傑と呼ばれるような人の、本当の姿を描いた本を読んだことはあるであろうか。ああいう本を読むと、自分の中の常識が崩れてしまうという事で手を付けない読者様もおられるかもしれないが、英雄だって一人の人間であるわけであり、世間でいう所の「英雄像」というものは、いわば人々の理想像なのである。
ではこんな前置きがあるのは何故か、その理由について触れていこう。
電撃文庫においては割と珍しい(筈)、小説家になろう原作であるこの作品は一体どんな作品であるのか。
しがない盗掘家、アラン(表紙右)。彼が遺跡で見つけたのは世界を救った大英雄、グレイが使用していたとされる杖。
その杖を握った途端、まるで導かれるかのように。彼は1000年の昔、グレイが本当に生きていた時代へと転移していた。
そして彼が出会ったのは、未来の大英雄・・・であるはずの少女、グレイ(表紙左)。しかし彼女は英雄どころか路傍の石。魔法学院に入学できなかった稀代のぽんこつだったのである。
もうお気づきであろう、後世の英雄譚は全て彼女が見栄の為についた嘘八百。ではその嘘を本当にするにはどうすれば良いのか。答えは難しいようで簡単、要は本当に世界を救って本当にしてしまえばよいのである、その嘘を。
凸凹な二人が始めるのは、アランが知る歴史を辿る英雄への道。しかし、この時代にはいない筈のアランが歴史に絡んでしまう事で、歴史は歪み、本来の分岐点ではない分岐点が幾つも発生し、更には未来の知識を持つ最強の敵が自らの死を阻む為に立ち塞がる。
どうしようもないかもしれない、だけどどうにかしなければいけない。ならば必要なのは何か。それは一つ、「信じる事」だ。
確かに彼女は英雄ではないのかもしれない。必死に張る虚勢こそが唯一の武器。だけどそれは根拠すらも危うい諸刃の剣。
だが、そんな正義だって信じてもらえたのなら。それこそが力となるのだ。
彼女だけではだめ。彼だけでも勿論だめ。だけどもし二人の思いが重なったのなら。理想を掲げる者と信じる者が同じ方向を向けたのなら。
「大丈夫です。負けませんよ」
その時こそ、英雄の物語が始まる合図。二人で一つの英雄譚が幕を開けるのである。
この作品は、下種な一手と嘘に彩られた作品である。だが同時に確かに、小さいけれど確かな英雄譚として成り立っている、どこか締まらぬ彼等だけの英雄譚なのである。
ファンタジーが好きな読者様、笑いに満ちた作品が好きな読者様、癖が強いヒロインが好きな読者様にはお勧めしたい。きっと満足できるはずである。