さて、現代に迷宮が存在していると現代ファンタジー、というジャンルになることが多いが、現代の迷宮、というと配信という要素に繋がる事も多いであろう。今やラノベにおいて一つ、隆盛を迎えているジャンルであるダンジョン配信もの。この作品もまた、そんなダンジョン配信ものな作品であり。コミュ障な少女、楓(表紙)が配信と人助けを経て成長していく物語なのである。
迷宮と言うものが生まれて間もない頃、迷宮から得られる研究資源などを秘匿されないように透明化が求められた為に定められた法律、それは映像記録の公開というもの。専用のカメラで記録した映像を求められるその法律は、理由が時の流れの中で形骸化し。今は迷宮配信というポップカルチャーとして、トレンドになっていたのだ。
「はじめます」
「今日は、いっぱい、話した」
そんな配信者の一人である楓。役職的にはヒーラー、であるも彼女自身は風属性の魔法を武器に剣一本で迷宮を駆けまわるゴリゴリの近接タイプ。 配信はするも話す事はなく淡々と突き進み、時に魔物に襲われている者が居れば躊躇わず助ける。数少ないリスナーから「お嬢」という渾名で親しまれ時に後方保護者面で見守られながらも、自分のペースで頑張っていた。
「いかがでしょう。救助活動、やってみませんか?」
ある日彼女へかけられたのはスカウトの声。その相手とは国内最大の医療法人団体、日本赤療字社。迷宮内は国内屈指の危険地帯。しかし立ち入れるのは探索者だけの為に積極的な介入は出来ず、育成しようにも肝心のヒーラーの育成に難航していて。つまり何処にも属さぬ凄腕ヒーラーな楓は正に逸材であったのだ。基本的には救助依頼が入った時だけ動いて後は自分の活動を、という条件のもとに働くことに。
「なんだよそれ、ヒーローかよ・・・・・・」
絶体絶命の場に現れて颯爽と救助、そのまま殲滅、言葉少なに去っていく。新しい形での活動は「日療の白石さん」という異名で有名になり始め。その最中、迷宮内で起きた魔力暴走の中でかつて助けた探索者、すずと再会。だがその前で起きた魔力収斂という現象で現れたのは、不帰の六層から現れた幻影種、忘れられた魔女、リリス。絶体絶命、しかし要救助者を置いても行けず。そこですずが自分で囮になり、赤療字社のオペレーター、真堂からは撤退指示。
「必ず助けます。信じてください」
「行ってこい」
だが逃げる理由にはならない。助けるべきはまだ残っている。要救助者をリスナーに託し、責任を背負うと決めた真堂から送り出され。
「私のこと、信じてよ」
追い詰められたすずの元に駆け付けて、かけるのは信じてと言う一歩踏み出した言葉。立ち向かうならば出し惜しみなし、自身の身を削るのも厭わぬ全て出し切る一手で迫り、最後は物理で決着を。
「彼女なら、やります」
類まれなる成果を見せつけた彼女を中心に動き出す大人達、それは彼女を英雄にさせぬために。見守られながら、彼女は少しずつ配信が楽しくなりながら生きていくのだ。
一歩踏み出す成長の輝きがあって、心温まるこの作品。頑張る誰かを応援したい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 配信に致命的に向いていない女の子が迷宮で黙々と人助けする配信 (ファンタジア文庫) : 佐藤 悪糖, 福きつね: 本