突然であるが画面の前の読者の皆様に想像してもらいたい。・・・もし自分の最後の寄る辺である記憶を奪われ、何処かも分からぬ場所に誰かも知らぬ者達と監禁されたら、貴方はどうするだろうか。
そんな訳も分からぬ状況に唐突に巻き込まれ脱出するために迷宮を攻略する事になった子供達の物語こそがこの作品である。では、この作品の特筆すべき点とは何か。
まず一つ目に、彼等が閉じ込められた学園と言う舞台が全く以て謎だらけという事があるだろう。
学生達以外は機械的な反応しかしないNPCと名付けられた人達。何故か思い出せぬ欠けた記憶。怪物たちが徘徊する謎だらけのダンジョン。そして、大まかなルールを明示するのみで姿を見せぬ運営。更には、学生達は何十年と姿を変えず、生きている限りこのままという事実。
既に基本的なルールを教授できるほどの先達がいるにもかかわらず、分からぬことのほうが多いという事実が謎と不安を駆り立ててくるのである。
二つ目は、この極限の状況下での子供達の行動がリアリティがマシマシであり人間達の怖さもまた描写している事ではないだろうか。
この世界はゲームであると信じ不法に手を染める不良がいれば我武者羅に攻略をするチームだってある。
そんな彼等に襲い掛かるはより圧倒的な力、そして等しく死を齎す迷宮に巣食う人食いの怪物たち。
それぞれ最善と思う行動を選び、停滞する者もいれば力を得る者もいる。だけど力を得ても決して最強ではない。何故なら敵が絶望的なまでに強大であるように、先達達の力もまた強大であるからである。それこそが争い合う怖さを生み出し、更にエグみを増させているからこそ噎せ返るような死臭の中に死闘の熱さが光っているのではないだろうか。
どうか見届けてあげてほしい。決して一つに纏まらず己の主張をぶつけ合い、それでも脱出の為にもがき苦しむ彼等の姿を。