読書感想:吸血鬼は僕のために姉になる

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突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方はとなりのトトロはご存じであろうか。子供の時にだけ訪れる不思議な出会い、ならばトトロもまたそういう存在だったのかもしれない。

 

この作品におけるクラーケンやドラゴンのような西洋の怪物、そして鬼やぬりかべのような日本の妖怪達、それらは全てこの作品では幻想種と呼ばれる存在であり、この世界においては見えぬ、否、気付かれぬだけで私達の隣人として存在しているのである。

 

そして彼等を見守り、彼等と人を繋ぐ存在、それこそが管理人である盲目の吸血鬼、セナ(表紙)であり、彼女に引き取られたのが唯一の肉親出会った祖父を亡くした主人公、日向である。

 

彼女に引き取られ、どこかチグハグな姉として接される中、日向が触れていくのは意外と身近にいた幻想種たちの本当の姿。

 

森の奥には一つ目の怪物がいて、主人への想いで犬頭の人間となった郵便屋さんがいて。

 

普通の人間だと思っていた幼馴染、彼女は恋と食の欲に揺れる幻想種で。

 

親友だと思っていた少年は、誰かの願いが生み出したいつか消えゆく虚構の存在で。

 

そんな愉快な隣人たちは知っていた、日向こそが自分たちが見守ってきた繋がりを継ぐべき者だと。彼こそが後継者だと。

 

日向の家に連綿と受け継がれてきた役割、それは人と幻想種を繋ぐ管理人。

 

そしてセナこそは、日向の遥か前から続くその役割を一時的に引き受けていた。かつて愛した男の最後の願いを引き受けて。

 

そして彼女は心配していた、だからこそ成りたがっていた。日向の姉に、家族に。

 

この作品は言うなれば、継承と愛の作品である。幻想種という日常のヴェールを一枚捲った存在達に触れた一人の少年が、連綿と受け継がれてきた願いを知り、その願いの果てを目指すバトンを受け取る作品である。そして孤独だった日向とセナが出会い、家族となっていく家族愛の作品である。

 

「だって、家族ですからね」

 

だからこそ、こんなにも心が温まるのだ。どこか涙を誘われるのだ。

 

心温まりたい方は是非読んでみて、彼等の世界を覗いてみてほしい。

 

願わくば、また彼等と出会えることを。

 

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