読書感想:終焉ノ花嫁

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突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方はもし目的を果たすまで同じ時間を繰り返す事になるのなら、何回まで耐える自信はあるだろうか。自信があるという読者様はこの作品の主人公が経験した数まで繰り返しに耐える事は出来るだろうか。

 

幾百年前、唐突に来襲した機械とも蟲ともつかぬ生きた機械、「キヘイ」。無慈悲なる殺戮者達の侵略により大損害を受けた世界、その片隅にある滅びかけたとある帝国。そこにある、キヘイに家族を殺された子供達を多く集めた魔導学院。そこに通う学徒の一人であるコウ(表紙右)はある日、任務である探索中に絶望と希望に出会った。

 

絶望は何か。それは出会ってしまったら全滅するしかない強大なるキヘイ。希望は何か。それはキヘイの中でも絶大な力を秘めた姫達、その中の存在しない筈の七人目の姫である白姫(表紙左)。

 

出会い、婚姻を結んだコウが転科した先は謎の胡散臭い教師、カグラが率いる部隊「百鬼夜行」。存在しない筈の百番目の部隊にしてキヘイと婚姻を結んだ者達が集う部隊。そして、非常事態の際には全滅するまで戦う事を義務付けられた決死隊。

 

白姫と共に。不意に始まった非日常は而してすぐに日常へと変わり、まるでそうであったのが自然なように二人の同調は進み、頼れる先輩や仲間達に囲まれ新たな居場所を得ていくコウ。

 

そんな彼の前に現れたのは謎の姫。キヘイの女王、存在せぬ筈の御伽噺である黒き姫。彼女の到来と共に告げられるのは全てが終わる、最悪の終末の到来。

 

誰もが苛烈に戦い、そして散って逝く。それは白姫も、コウも同様に。

 

だがしかし、それこそが全ての始まりだった。たった一つの未来を探し戦う、コウの終わりなき戦いの始まりだった。

 

何度も何度も繰り返した。その度に幾度も散った。だけどそれでも、終われなかった。

 

そしてそれは、黒き姫も同じだった。彼女は彼女であった。そして愛しい人を取り戻すために戦い続けていたのだ。

 

何度も何度も。愛しい彼が死ぬのを見届け、女王と化して正気を蝕まれても尚。それでも、と。

 

二人の姫、そして意外な正体を晒したカグラに背を押され、折れかけた心を奮い立たせ。再びコウは走り出す。

 

自らの身が変わるのも厭わずに。全てを背負う、そう決めたからこそ。

 

「約束は、果たしたよ。白姫」

 

その一言が、彼の選択こそが誰も知らぬ未来を拓く鍵だったのだ。

 

この作品において、人の命はあまりにもあっけなく散る。理不尽な脅威にさらされ、あっさりと狩られていく。だがそんな血塗れの世界でも、彼等は確かに生きているのだ。

 

狂おしく残酷に、だが何処までも甘く。

 

これは確かな愛のお話であり、幾度となく繰り返し必死に駆け抜ける少年の成長譚である。そして、だからこそ仄暗くも温かく優しい、引き寄せられ見逃せなくなる面白さを持った作品なのである。

 

綾里先生が好きな読者様、入門したいという読者様。そしてダークな世界を愛する全ての読者様に読んでみてほしい。きっと、貴方は衝撃の先の満足を知る筈である。

 

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