読書感想:わたし以外とのラブコメは許さないんだからね(3)

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前巻感想はこちら↓

読書感想:わたし以外とのラブコメは許さないんだからね(2) - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

「多分、希墨になら裏切られてもいいかなって思ってるから」。これは前巻で我等がヒロインであるヨルカが言った一言である。無論、主人公である希墨がヨルカを裏切る事が無いのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。再三述べてきたがこの作品は言わばアフターストーリーだから。が、しかし。次から次へと恋の大問題が湧いてくるのもこの作品の趣旨の一つであるというのも画面の前の読者の皆様はご存じであろう。

 

前巻においては、希墨を追いかけてきた後輩ヒロイン、紗夕という恋の障害が二人の前に立ち塞がった。が、しかし。今巻の障害は前巻の比ではない。何故ならば、今巻の障害は身内。

 

 その名はアリア(表紙右)。かつて高校在学中に数々の伝説を残したヨルカの姉であり、希墨とは勉強を教えた側と教えられた側という、一種の師弟関係のある大人の女性である。

 

「大丈夫だって―――その頃には俺もとなりに座ってるかもしれないし」

 

付き合い始めて三か月、季節が夏へ移りゆく中、キスがしたい、関係性を先に進めたい。そんな思春期真っ盛りな悩みを抱えながらも、自然と将来を意識したやり取りをするほどに、仲を深める二人。

 

 が、しかし。初めて訪れたヨルカの家で訪れた衝撃的な再会。そこから始まるのは、アリアという嵐に翻弄される波乱の日常である。

 

「大ありだよ。スミくんは紫鶴ちゃんの救世主なんだから」

 

いきなり、まるでヨルカと引き離すかのように引っ張り込まれ。希墨は担任である神崎先生のお見合い問題の解決へと巻き込まれ、偽装彼氏役として選ばれてしまい。

 

「むしろ私はあなたの味方じゃないのかな? 今回のことが失敗して、つけ入る隙ができればあなたにもチャンスが訪れるかもよ?」

 

それどころか、微妙な危うさと生温さで成り立っていた希墨の周りの関係をぶち壊さんとするかのように、爆弾を投げ込み混沌を巻き起こす。

 

以前であれば翻弄されるだけであったかもしれない。だがしかし。希墨とヨルカはもう変革の時を迎えている。もうあの日のように翻弄される希墨じゃない。そして、姉の影に尻込みし、孤高を貫いていただけのヨルカではないのだ。

 

お互いを信じあえる、信じられる。だからこそ離れてていても、お互いに協力できる。

 

「わたしの好きな人を、好きにならないで」

 

 そして、希墨と過ごした大切な日々が心の力となるからこそ。尻込みも躊躇も越え、偉大なる姉と向き合い己の意志を叩きつけられる。

 

変わりゆく日々の中、また一歩関係性を深める希墨とヨルカ。試練があるからこそこの甘さは際立ち、胸に沁みるのである。

 

前巻を楽しまれた読者様、試練と甘さが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:君が、仲間を殺した数 II ―魔塔に挑む者たちの痕―

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前巻感想はこちら↓

読書感想:君が、仲間を殺した数 -魔塔に挑む者たちの咎- - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、次回もまたスカイツと共に地獄に付き合ってもらう、と思われたそこの画面の前の読者の皆様、その予想は少しハズレとなると言う事を先にお伝えしておきたい。もう、スカイツは一人きりなのである。既に全てを捨て、それでも、何を犠牲にしてでも必ず塔の天辺まで上り詰めるともう踏み出してしまった後であるのは、前巻を読まれた方であればご存じであろう。では、今巻は一体何を描くのか、どんな地獄を描くのか。その答えは単純明快。それは「痕」、そして「理由」。一人残されたスカイツの幼馴染、シア(表紙)を主人公として描く、喪失と成長を彩る地獄である。

 

「お前はどうなんだ、シア。どうしてお前は、あそこに挑む」

 

自らに協力してくれる昇降者、人語を話すネズミのシロハラ徒手空拳で戦う人間のクロヤ。スカイツに捨てられ悲嘆に暮れ、何の理由もなく塔に上る中、クロヤに投げかけられた質問はシアの心を苛む。突き付けられる事実、自分は自分の中に理由を持ってはいなかった。ただスカイツについていくだけだった、依存しているに過ぎなかった。

 

「―――スカイツを、ぶん殴りたいっ!!」

 

 己に呪いを与えた存在、フォロスとの語らい。そして果て無き自問自答。そして彼女は自分の中に理由を見つける。スカイツを一発ぶん殴る、殴ってから話をする。身勝手な彼に似て、どこまでも身勝手で、けれど真っ直ぐで。

 

だが、塔はどこまでも誰にとっても等しく残酷。そして、クロヤから格闘術を教わったシアも、一人で塔を登り続けるうちに更なる強さを得たスカイツも。強者の上には強者がいる、未だ届かぬ果てが彼女達の前に何処までも広がる。

 

パーティ全滅の不幸に見舞われた落ちこぼれ「共生派」の少女、パロマと心通わせ、しかし残酷にもその絆は裂かれる。不可解な襲撃事件の中、明らかになる残酷な真実と共に。

 

事件の黒幕との死闘、自らの身体が傷つくのも厭わぬ戦いの中、突如として乱入した強者によりクロヤは理不尽にも傷つけられる。

 

 だが、それでもシアの足は止まらない。もう止まらない。

 

「―――おれの想いも、背負ってくれ。お前が、前に進み続ける限り」

 

その胸に宿るは、立ち止まる事を押し付けられたクロヤから託された想いと願い。

 

「好きにする。好きだから」

 

そして、自分だけの想いで見つけ出した願い。彼が地獄へ堕ちるなら共に。彼が何処にいても見つけ出す。それは迸るような「愛」から生まれた、自らへと課した新たな「呪い」であり「祝福」。

 

前巻とはまた毛色の違う、黒い展開が心に突き刺さる今巻。

 

前巻を楽しまれた読者様、やはり地獄が好きという読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

君が、仲間を殺した数II ‐魔塔に挑む者たちの痕‐ (電撃文庫) | 有象利路, 叶世 べんち |本 | 通販 | Amazon

読書感想:春夏秋冬代行者 春の舞 上&春夏秋冬代行者 春の舞 下

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 さて、突然ではあるが、一番長くあってほしい季節、逆になるべく早めに終わってほしい季節。そんな季節は、画面の前の読者の皆様の中に存在しておられるだろうか。私は別に過ごしやすい季節であれば、そうあってほしい派閥である。ではもし、季節を齎す神様が私達と同じ世界にいるとしたら、貴方は神様に何を願うだろうか。

 

大海原の只中に浮かぶ、大きく分かれた五つの列島からなる国、「大和」。

 

 かの国では、季節の巡り替わりを人が為す事が決められ、季節の移り変わりを担う人間は「代行者」と呼ばれ、現人神として崇められていた。が、しかし。この国には今まで十年ほど、春という季節が来ていなかった。その理由は何故か。それは、春の季節を担う代行者が、テロ組織による誘拐事件の末に行方知れずとなっていたからである。

 

だがしかし、今。「春」の季節を担う少女が帰還した。かの少女の名は雛菊(上巻右)。誘拐事件から奇跡の生還を遂げた少女である。

 

だが、彼女は果たして本当の彼女なのか。否。長きにわたる監禁生活の中、彼女の心は一度死に、新たに生まれた心が身体を動かす状態となっていた。

 

そんな彼女を取り巻くのは、あの日彼女を守れなかった者達による悔恨。そして代行者とその護衛達のそれぞれ形の違う、信頼の形。

 

あの日彼女を守れなかった後悔を抱える、雛菊の護衛のさくら(下巻表紙左)。彼女に激しく憎まれ、自身もまた後悔を抱える「冬」の代行者の護衛、凍蝶(下巻表紙右)。初恋の相手であった雛菊を守れなかった事を悔やみ続ける「冬」の代行者、狼星(上巻表紙左)。

 

「秋」の代行者、撫子は自らの護衛である竜胆を恋慕い。「夏」の代行者、瑠璃は自らの姉でもある護衛官、あやめと時にぶつかり合いながらも共に進む。

 

 雛菊の帰還により、四季は揃い、また全てが始まった。だが、彼女が招いたのは新たな季節だけではなく。かつて彼女に害を為した賊達もまた、再び自らの目的のために動き出していたのだ。

 

攫われる撫子、嘆き憤る竜胆。あの日と同じように傷つけられ、引き裂かれる代行者たち。

 

 だが、このままでは終われない。十年前の悲劇は二度と繰り返させはしない。その思いに変わりなく、代行者達は願いを重ね、共同して事態の解決に乗り出す。

 

まるで駆け抜けていくかのように突き進み、それぞれの思いが交じり合い交錯する激しい戦い。その中で交わされる、誰かから誰かへの思い。

 

「お前の為なら、何度でも俺は王子様になる・・・・・・」

 

撫子の前で見せた竜胆の初めての素顔と新たな誓い。もう二度とその手を離さないと言うかのように。

 

「な、何なんだよ・・・・・・お前、おそいんだよ・・・・・・くるのが・・・・・・あと、一度にたくさん喋るなっ」

 

凍蝶との再びの向き合いと氷解、さくらから溢れ出した素直になれぬ気持ちの中に隠した溢れ出す想い。

 

「もう君を誰にも奪わせないし、傷つけさせない」

 

「君は俺の春だ・・・・・・」

 

「おかえり、雛菊」

 

そして、狼星が再会した雛菊へと、あの日と同じように氷の花梨の花と共に届けた想い。例え君が違うとしても、それでも好きだと真っ直ぐに伝える想い。

 

切なくも美しく、何処か寂しい。だけど確かに温かい。

 

それはまるで、早春の朝に包まる毛布のように。そんな切なさの中にある優しさが、心に温もりを齎してくれるのがこの作品なのである。

 

心揺さぶられたい読者様、独特の世界観が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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春夏秋冬代行者 春の舞 下 (電撃文庫) | 暁 佳奈, スオウ |本 | 通販 | Amazon

読書感想:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件4

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前巻感想はこちら↓

読書感想:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件3 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様(久しぶりの前説)。誠に申し訳ないが、この作品の今巻の結末を見た私から、ネタバレ込々で気持ちを迸らせる事をお許しいただきたい。

 

二人とも、本当におめでとう。ここまで来るのに回り道もじれったさもあったけれど、やっとここまで辿り着けた二人に祝福を。

 

 もうお分かりであろう、つまりはそういう事である。ここまで散々じらされてきたけれど、やっと我等が主人公の周が覚悟を決め、一歩を踏み出すのである。

 

どこか遠慮していた、自分では届かないと思っていた。けれど真昼の気持ちはなんとなくわかっている。距離を取ろうとしていても、身勝手な独占欲が心を焦がす。

 

「・・・・・・まだまだなんだよなあ」

 

 けれど、容姿端麗、頭脳明晰。何もかも持っている彼女にはまだ遠くて。だからこそ変わる。彼女の隣に立っていても、誰にも文句を言われないように。身体を鍛える事を始めたり、必死に勉学に打ち込んだり。今まで立ち止まっていた分を取り戻そうとするかのように、必死に周はもがき始める。

 

「・・・・・・周くんってやっぱり可愛いですよね」

 

「周くんこそ、そういう可愛いところを人に見せちゃ駄目です」

 

そんな彼の努力を真昼は優しく見守り、時に包み込み、自身も独占欲を見せる。貴方の良い所も可愛い所も分かっている。だからその顔は自分だけに見せてほしいと。

 

「あなたの言葉を訂正させていただきますけど、周くんはかっこいいですし優しい人ですよ。物静かで温かい雰囲気も素敵だと思っています。それに彼はすごく紳士的ですし、私を尊重してくれる素敵な人です。私が苦しい時は側で支えてくれる、思いやり深い人です。少なくとも、誰かの悪口を言ったり人の恋路を邪魔するような人ではありません」

 

結果の一つの結実となる体育祭。周を貶した当て馬男子生徒に真昼は穏やかなままに鋭い言葉の刃を繰り出し完膚なきまでにその心をへし折る。彼は貴方よりも何倍も素敵な人だ、貶す事は許さない、と。

 

「真昼の事が、誰よりも好きだよ。・・・・・・俺と、付き合ってくれるか?」

 

「これは俺の願望。俺が俺の手で幸せにしたいって願いだから。決意で言うなら・・・・・・大切にするし幸せにするよ、絶対に」

 

 そして、体育祭の後、いつもの二人きりの家。そこで待っているのは柔らかな風が見守る愛の告白。絶対に幸せにする、という決意を込めた愛の告白。

 

自分は彼女に変えられた、だからこそ決意した。真昼の事を絶対に幸せにすると。

 

 ここに結ばれるは「恋」、否、「愛」の誓い。今まで丁寧に積み上げ重ねてきたからこそ辿り着けた二人だけの恋の形。まるで雪だるまのように、二人で一緒に溶けあうように一つとなりながら進んでいく、何処までも貴方と共にというかのように。

 

ようやっと辿り着いた、ここまで。けれどここからは本当の始まり。只の隣人から恋人同士へ。この先も二人のお話は綴られる、故にこそこの作品の甘さと面白さはここからが本番なのである。

 

前巻を楽しまれた読者様、このシリーズのファンの読者様。是非ここまで一気に読んでみてほしい。

 

 

万感の思い溢れる、正に尊いという他ない面白さを楽しめる筈である。

 

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件4 (GA文庫) | 佐伯さん, はねこと |本 | 通販 | Amazon

 

読書感想:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件3

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前巻感想はこちら↓

読書感想:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件2 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、この作品も早くも三巻。季節は春、新学期である。春と言えば変化が目白押し、そんな新たな何かが始まる季節で在り、この作品においても例外なく、周と真昼の新たなる関係が始まる季節となる。

 

その変化とは進級、そして新学期。進級した事で、今まで別のクラスだった真昼と周は同じクラスとなり、家だけではなく学校においても徐々に距離は縮まり、関係性が少しずつ進み始めるきっかけとなる。

 

 その変化の口火を切るのは、我等がヒロインの真昼である。前巻で遂に周への恋を自覚した彼女は懸命に、周との距離を縮めようと行動を始めるのだ。

 

「私だけのけ者なのは・・・・・・いやです」

 

ふとした瞬間に、思わず自分の本心を漏らしたり。

 

「・・・・・・ゴールデンウィークに、周くんの一日をもらいます。お買い物とか、遊ぶのとか、したいです」

 

ゴールデンウィークが迫る中、周に貰った権利を行使し、周とのデートのようなお出かけの約束を取り付けたり。

 

 一生懸命に、少しずつ。周にだけ見せていた柔らかさを新しい級友達にも。周りの他人との距離感も少しずつ変化させようとしながらも、背伸びしながらも周に手を伸ばして。けれどその手を周は取らず、どこか遠慮するように彼女から一歩離れた位置にい続ける。

 

画面の前の読者の皆様にはこう言いたい方もおられるのではないだろうか。何故いかぬ、踏み出さぬ。君の気持ちは十分に知っているぞと。

 

 だが、それでも踏み出せぬのが我等がへたれ主人公の周である。そしてその踏み出せぬ要因の一つとして、彼が心の中に抱えた古傷が疼く。

 

地元で過ごした過去で抱えた苦い経験。信じていた人に手ひどく裏切られ、人と近い位置で関わるのが怖くなってしまった苦い記憶。

 

「・・・・・・でも、すごく、いい人なのも、我慢強いのも、知ってます。私にくらい、甘えてくれてもいいのですよ」

 

だけどそんな心の傷も、自分のダメな所も良い所も全部真昼は包み込んでくれた。自分の為に本気で怒ってくれる人がいた。その事実は確かに周の心の傷に差し込む光となり、彼の心の壁を解かす温もりとなる。

 

だからこそ、今、彼は決断の時を迎える。

 

「お付き合いはしていませんけど、私にとって・・・・・・彼は一番大切な人ですよ」

 

真昼によりクラスへと投げ込まれた爆弾、それは波乱の予感を芽吹かせて。もう進むしかない、退路はない。だから、今、その一歩を。

 

さぁ、いよいよ次巻では二人の関係性の変化がみられるのだろうか。

 

前巻まで楽しまれた読者様、どうか今巻も次巻も纏めて読んでみてほしい。

 

次巻、きっと望んだ景色が見られるはずだから。

 

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件3 (GA文庫) | 佐伯さん, はねこと |本 | 通販 | Amazon

 

 

読書感想:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件2

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前巻感想はこちら↓

読書感想:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で始まった、周と真昼のまだ名もなき関係。周にとって真昼とは、放っておけない大切な相手。真昼にとって周は、今まで見てきた男とは違う好ましい相手。甘酸っぱいもどかしさではなく、一足飛びに関係が進む訳でもなく。また一つ、もう一つと二人の時間を積み重ねていく二人の恋路。その恋路が、確かに恋路へと変わるのが今巻である。ここから確かに始まるのである、まだ名もなき関係が変わる音が優しく響く時、本当に全ては始まるのだ。

 

「その・・・・・・周くんも、かっこいい、ですよ?」

 

年も明けて、訪ねてきた周の両親も交えて過ごす初めてのお正月。晴れ着に着替えさせられたお互いの姿をみて意識してしまったり。

 

「・・・・・・周くんが優しい人な事くらい、知ってます」

 

体調を崩してしまったある日、いつもとは違って周に世話されて思わず甘えてしまったり。

 

「ん、似合ってる」

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

ちょっとした波乱のバレンタインデーを越えてホワイトデー。周のお返しに思わずふわりと笑ったり。

 

何気ない日々の中、積み重なっていくのは真昼にとっての「初めて」。彼とその周りの賑やかで優しい人達に触れ見守られるうちに、真昼の心を覆っていた氷は解けていき、隠されていた彼女の心の傷、本当に求めていたものを抱えたか弱き少女の心は明らかとなる。

 

「・・・・・・困るなら、産まなければよかったのにね」

 

母親との確執を周に目撃され彼に自身の家庭環境を明かし。思わず漏れた呟き、そこに込められたのは切なる痛み。今までずっと言えずにいた、笑顔の裏に隠していた心の痛み。

 

「母さん達は真昼の事気に入ってるからさ、ずっと居たっていいって言ってくれると思うしさ・・・・・・むしろ真昼が幸せになるまで放してくれないと思う。俺達にはお前が親とどうするかなんて決められないけどさ、お前が踏ん切りつくまでいくらでも甘えさせるというか、支えるから」

 

 そんな痛みも、素の真昼も全部。周はまるっと包み込み伝える。ずっと側にいる、今はもう俺達がいると。

 

その言葉はきっと、真昼がずっと欲しかったもの。その温もりはきっと、真昼が今まで欲しくても手に入れられなかったもの。

 

全てを明かせる、曝け出せる。どんな自分でも受け止めてくれる。その瞬間、真昼の心の中に柔らかく音が鳴る。それは、確かに恋をした音色。

 

付き合ってはいないけれど、隣にいると温かくて。だからずっと隣にいたくて。ここから始まる本当の純愛。果たして恋と言う色は、どんな色彩を二人の日々に加えるのか。

 

前巻を楽しまれた読者様、やはり純愛が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件2 (GA文庫) | 佐伯さん, はねこと |本 | 通販 | Amazon

 

 

読書感想:お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件

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 さて、画面の前の読者の皆様。この感想記事の見出しと画像を見てこう思われた人もおられるのではないだろうか。基本的に新作を追い続けるこのブログが、何故この作品の感想を今書くのか、と。

 

 その件について簡単にではあるが、釈明させていただきたい。実は、このブログを書くのに使っているパソコンの周りには、このブログで感想を書きたい過去作品の山がいくつか出来ている。その山を形成しているシリーズの一つが、このシリーズであり、今ようやく時間が空いたので、ここからこのブログで記事を書いていく次第、という訳である。

 

 さて、画面の前の読者の皆様の中には既にもうこの作品を読んでいる方もおられるだろう。そんな方には今更説明は不要かもしれない。でも読んだ事が無いと言う読者様もおられるかもしれない、という事でこの作品の内容をごく簡単に説明するのなら、もどっかしくてじれったい、けれど甘々な純愛ラブコメ、この一言で説明できるのである。

 

昨今の幼馴染ものの流行に乗っておられる読者様であれば、あまり見かけぬかもしれない、同級生ヒロイン。が、しかし。この作品の場合においてはそれでこそ正解であり、寧ろそうでなければ物語が始まらなかった可能性すらもあるのだ。

 

何処か陰気な自堕落へたれ紳士、主人公の周。彼の住まいであるマンションの隣の部屋に住む、「天使様」とも評される学校で一番の美少女、真昼(表紙)。

 

普通であれば何のかかわりあいもない筈だったある日、ずぶ濡れになっていた真昼に傘を貸して。

 

「・・・・・・さすがに放っておけません」

 

「借りは、返します」

 

彼に取っては何気ない気紛れであったのかもしれない。けれど真昼は借りを返すという名目の元、風邪を引いた周の看病に励み。彼の部屋の散らかりようを見て、放っておけないと掃除まで初めて。

 

 徐々に彼女が生活の中に入り込んでくる。同じ時間を同じ部屋で過ごす事が増えてくる。けれど、それが苦痛では無くて。どこかくすぐったいけれど、心地よくて。

 

 

「こちらこそ、ありがとうございます」

「俺なにもしてないけどな」

 

周の母親に関係を誤解され、親友カップルにも関係がバレてしまい。邪推されたり見守られたりしながら二人の時間を過ごす中、少しずつ二人は向かい合う。お互いがお互いに放っておけない存在へとなっていく。

 

すぐに付き合う訳じゃない、何気ない日常を丁寧に積み重ね、季節の移り変わりを緻密に描く。そんな日々の中に、まるで染み込ませるかのように甘さを込めているからこそ、まるで舌の上で溶けるかのように、とても良き甘さが味わえるのである。

 

このラブコメ、まさに純愛、故に外れなし。

 

純愛が好きな読者の皆様、丁寧な日々を見てみたい読者の皆様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件 (GA文庫) | 佐伯さん, はねこと |本 | 通販 | Amazon