読書感想:君が、仲間を殺した数 -魔塔に挑む者たちの咎-

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。貴方はもし自分が死ぬたびに周りの誰かが存在ごと消滅してしまうとしたら、どうするだろうか。貴方はどう生きていかれるだろうか。

 

さて、この作品の作者である有象利路先生と言えば、最近の読者様であられれば電撃文庫の、否出版業界にとっての汚点であり面汚し(誉め言葉)、カオスと狂気溢れるかの問題作、賢勇者シコルスキ・ジーライフシリーズが真っ先に頭の中に思い浮かぶ方だろうか。

 

そんな画面の前の読者の皆様、とりあえず今すぐその印象を捨てるか頭から一端で良いので消去してからこの作品を開いてみてほしい。温度差でものすごい事になるので。

 

〈塔〉と呼ばれる、誰によりいつ創られたかも分からない構造物から生み出される無尽蔵な宝や資源が人々の重要な糧となっているとある異世界。塔に挑み、富や名声を得ようとする者たちが「昇降者」と呼ばれるこの世界。

 

その世界、塔のまだ浅い所。そこで仲間と共に戦うも、新種の魔物により一人死を迎えようとしていた少年がいた。彼の名前はスカイツ(表紙)。投げナイフで敵をけん制する事を得意とする職につく、幼馴染五人で立ち上げたギルドの一員である。

 

為すすべもなく死ぬところだったはず。だがその筈だった彼は、イェリコと名乗る謎の声によりとある祝福を与えられた。

 

その祝福とは、塔の中で死んだのならば時間を戻し復活できる力。これだけ聞けば良いものかもしれない。だが、この作品はそんな甘いものではなかった。この祝福は魔の祝福。云わば、呪いであったのだ。

 

確かに時間を戻し復活は出来る。だがそんな奇跡は只では起きない。ならば代償は何か。それは仲間の命。

 

そう、仲間の存在全てを喰らい、その身に宿っていた力すらも問答無用で奪い取り。仲間達の存在、かけがえのない存在達を世界から抹消して生き返ってしまうのが祝福の正体である。

 

もうここまで読んでいただけた読者様なら分かっていただけただろうか。この作品はスカイツという夢抱く一人の少年が、気紛れな魔に見初められ、自分の駒として盤上にあげられてしまう作品である。

 

「―――だから、もう二度と俺に近付くな」

 

そして唐突な喪失に心をすり減らし。守りたいと思った大切な存在すらもあっけなく奪われ。失意と悲嘆の果て、只一人進んでいく鬼となり果てる救いのない作品なのである。

 

迷いもなく、例えどれだけ身体は傷つこうとも。大切な存在達を取り戻す。ただその希望だけを胸に、少年が墜ちた怪物は歩みを止めない。

 

救いもなく絶望だけが色濃く。どこまでも昏い、ダークでハードが過ぎるファンタジーが好きな読者様は是非。きっとそんな貴方は楽しめる筈である。

 

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