読書感想:春夏秋冬代行者 春の舞 上&春夏秋冬代行者 春の舞 下

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 さて、突然ではあるが、一番長くあってほしい季節、逆になるべく早めに終わってほしい季節。そんな季節は、画面の前の読者の皆様の中に存在しておられるだろうか。私は別に過ごしやすい季節であれば、そうあってほしい派閥である。ではもし、季節を齎す神様が私達と同じ世界にいるとしたら、貴方は神様に何を願うだろうか。

 

大海原の只中に浮かぶ、大きく分かれた五つの列島からなる国、「大和」。

 

 かの国では、季節の巡り替わりを人が為す事が決められ、季節の移り変わりを担う人間は「代行者」と呼ばれ、現人神として崇められていた。が、しかし。この国には今まで十年ほど、春という季節が来ていなかった。その理由は何故か。それは、春の季節を担う代行者が、テロ組織による誘拐事件の末に行方知れずとなっていたからである。

 

だがしかし、今。「春」の季節を担う少女が帰還した。かの少女の名は雛菊(上巻右)。誘拐事件から奇跡の生還を遂げた少女である。

 

だが、彼女は果たして本当の彼女なのか。否。長きにわたる監禁生活の中、彼女の心は一度死に、新たに生まれた心が身体を動かす状態となっていた。

 

そんな彼女を取り巻くのは、あの日彼女を守れなかった者達による悔恨。そして代行者とその護衛達のそれぞれ形の違う、信頼の形。

 

あの日彼女を守れなかった後悔を抱える、雛菊の護衛のさくら(下巻表紙左)。彼女に激しく憎まれ、自身もまた後悔を抱える「冬」の代行者の護衛、凍蝶(下巻表紙右)。初恋の相手であった雛菊を守れなかった事を悔やみ続ける「冬」の代行者、狼星(上巻表紙左)。

 

「秋」の代行者、撫子は自らの護衛である竜胆を恋慕い。「夏」の代行者、瑠璃は自らの姉でもある護衛官、あやめと時にぶつかり合いながらも共に進む。

 

 雛菊の帰還により、四季は揃い、また全てが始まった。だが、彼女が招いたのは新たな季節だけではなく。かつて彼女に害を為した賊達もまた、再び自らの目的のために動き出していたのだ。

 

攫われる撫子、嘆き憤る竜胆。あの日と同じように傷つけられ、引き裂かれる代行者たち。

 

 だが、このままでは終われない。十年前の悲劇は二度と繰り返させはしない。その思いに変わりなく、代行者達は願いを重ね、共同して事態の解決に乗り出す。

 

まるで駆け抜けていくかのように突き進み、それぞれの思いが交じり合い交錯する激しい戦い。その中で交わされる、誰かから誰かへの思い。

 

「お前の為なら、何度でも俺は王子様になる・・・・・・」

 

撫子の前で見せた竜胆の初めての素顔と新たな誓い。もう二度とその手を離さないと言うかのように。

 

「な、何なんだよ・・・・・・お前、おそいんだよ・・・・・・くるのが・・・・・・あと、一度にたくさん喋るなっ」

 

凍蝶との再びの向き合いと氷解、さくらから溢れ出した素直になれぬ気持ちの中に隠した溢れ出す想い。

 

「もう君を誰にも奪わせないし、傷つけさせない」

 

「君は俺の春だ・・・・・・」

 

「おかえり、雛菊」

 

そして、狼星が再会した雛菊へと、あの日と同じように氷の花梨の花と共に届けた想い。例え君が違うとしても、それでも好きだと真っ直ぐに伝える想い。

 

切なくも美しく、何処か寂しい。だけど確かに温かい。

 

それはまるで、早春の朝に包まる毛布のように。そんな切なさの中にある優しさが、心に温もりを齎してくれるのがこの作品なのである。

 

心揺さぶられたい読者様、独特の世界観が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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