読書感想:君が、仲間を殺した数 II ―魔塔に挑む者たちの痕―

f:id:yuukimasiro:20210402234249j:plain

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:君が、仲間を殺した数 -魔塔に挑む者たちの咎- - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、次回もまたスカイツと共に地獄に付き合ってもらう、と思われたそこの画面の前の読者の皆様、その予想は少しハズレとなると言う事を先にお伝えしておきたい。もう、スカイツは一人きりなのである。既に全てを捨て、それでも、何を犠牲にしてでも必ず塔の天辺まで上り詰めるともう踏み出してしまった後であるのは、前巻を読まれた方であればご存じであろう。では、今巻は一体何を描くのか、どんな地獄を描くのか。その答えは単純明快。それは「痕」、そして「理由」。一人残されたスカイツの幼馴染、シア(表紙)を主人公として描く、喪失と成長を彩る地獄である。

 

「お前はどうなんだ、シア。どうしてお前は、あそこに挑む」

 

自らに協力してくれる昇降者、人語を話すネズミのシロハラ徒手空拳で戦う人間のクロヤ。スカイツに捨てられ悲嘆に暮れ、何の理由もなく塔に上る中、クロヤに投げかけられた質問はシアの心を苛む。突き付けられる事実、自分は自分の中に理由を持ってはいなかった。ただスカイツについていくだけだった、依存しているに過ぎなかった。

 

「―――スカイツを、ぶん殴りたいっ!!」

 

 己に呪いを与えた存在、フォロスとの語らい。そして果て無き自問自答。そして彼女は自分の中に理由を見つける。スカイツを一発ぶん殴る、殴ってから話をする。身勝手な彼に似て、どこまでも身勝手で、けれど真っ直ぐで。

 

だが、塔はどこまでも誰にとっても等しく残酷。そして、クロヤから格闘術を教わったシアも、一人で塔を登り続けるうちに更なる強さを得たスカイツも。強者の上には強者がいる、未だ届かぬ果てが彼女達の前に何処までも広がる。

 

パーティ全滅の不幸に見舞われた落ちこぼれ「共生派」の少女、パロマと心通わせ、しかし残酷にもその絆は裂かれる。不可解な襲撃事件の中、明らかになる残酷な真実と共に。

 

事件の黒幕との死闘、自らの身体が傷つくのも厭わぬ戦いの中、突如として乱入した強者によりクロヤは理不尽にも傷つけられる。

 

 だが、それでもシアの足は止まらない。もう止まらない。

 

「―――おれの想いも、背負ってくれ。お前が、前に進み続ける限り」

 

その胸に宿るは、立ち止まる事を押し付けられたクロヤから託された想いと願い。

 

「好きにする。好きだから」

 

そして、自分だけの想いで見つけ出した願い。彼が地獄へ堕ちるなら共に。彼が何処にいても見つけ出す。それは迸るような「愛」から生まれた、自らへと課した新たな「呪い」であり「祝福」。

 

前巻とはまた毛色の違う、黒い展開が心に突き刺さる今巻。

 

前巻を楽しまれた読者様、やはり地獄が好きという読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

君が、仲間を殺した数II ‐魔塔に挑む者たちの痕‐ (電撃文庫) | 有象利路, 叶世 べんち |本 | 通販 | Amazon