読書感想:貴サークルは"救世主"に配置されました

 

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徹夜待機(勿論ルール違反なので止めましょう)、始発ダッシュ(危険ですので競歩レベルで留めましょう)。様々な風物詩がある一年に二度のオタクにとっての一大イベント、それは画面の前の読者の皆様はご存じであろうか。そう、コミックマーケット、通称コミケである。オタク達の汗と涙と熱気が飛び交う正に戦場である。

 

が、しかし。既にご存じであるかもしれないがコミケは昨今の情勢下においては勿論開催できるわけもなく、コミケの会場として名高い東京ビッグサイトは、雑草に彩られたゴーストタウンと化してしまっている。

 

その様とコミケがない事に寂しさを覚える画面の前の読者の皆様も一定数おられるだろう。

 

ならば、そんな貴方にはこの作品がよき処方箋となるのではないだろうか。何故ならこの作品には、同人作家という業の深い者達の生き様と生き方、そして熱さがこれでもかと詰め込まれているからである。

 

 コミケに二年間当選しスペースを貰ってはいるものの、二年間の参加の中で売り上げは六部。そんなうだつが上がらない弱小同人作家、ナイト(表紙左奥)。

 

そんな彼の元へ、謎の女子高生、ヒメ(表紙右)が唐突に現れる。そして彼女は声高らかに告げる、貴方こそがこの世界を守れる唯一の救世主であると。

 

同人誌百部を売り上げなければ、ナイトの数少ないファンの一人の中で息づく魔王が目覚め、世界が滅んでしまう。だからこそ今年は、同人誌百部を完売させなければならないと。

 

傍から聞いていればわけがわからないよと、まるで某インキュベーターが如く言いたくなるような状況に巻き込まれ、否応なくナイトは百部売り上げを目指す事となってしまう。

 

「一日三枚イラストを描いてください」、「生きた線が引けていません」

 

時にヒメに容赦なく駄目だしをされ、背を蹴飛ばされる勢いで叱咤激励され。

 

「もちろんです。そのために作ったんですから」

 

「自信を持って下さい。きっと売れます」

 

時に手料理を振る舞われたり、時に優しく励まされたり。

 

 厄介な奴から絡まれたり、厳しさに心折れそうになったり。だけどそれでも、描く手は止まらない、創作は止められない。それは何故か。

 

それは何よりも「好き」だから。好きという思い、伝えたい思いがあるからである。

 

全ては自己責任、だがそれ故にどこまでも自由。そして商売ではない、だからこそ何のしがらみもない。だから自分の好きを何処までも表現できるのだ。

 

「ここは、地獄なんかじゃない。だから、私は負けません! あの場所を壊させはしません!」

 

この戦場が如き世界は確かに地獄に見える。だがそこには誰かの好きという熱意がこれでもかと溢れている。だからこそこの世界には守るべき理由がある。

 

同人作家という業の深い世界を見てみたい読者様、創作への熱意迸る作品が好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

貴サークルは"救世主"に配置されました (GA文庫) | 小田一文, 肋兵器 |本 | 通販 | Amazon

 

 



読書雑記:発売日前恒例、新刊紹介なお話。ガガガ文庫及び富士見ファンタジア文庫編のお話。

夜分遅くにこんばんは、夜更かししている読者様はどれほどおられますでしょうか。私は愛猫と寝たいのですが愛猫が元気いっぱいに遊び回っているのでまだ寝れません、真白優樹です。では愛猫が落ち着くのを待ちながら、折角なので来週発売の新刊についてお話したいと思います。

 

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魔王2099 1.電子荒廃都市・新宿

著:紫大悟先生 絵:クレタ先生

 

ではまずはファンタジア文庫の新刊からの紹介です。まずはこちら。第33回ファンタジア大賞で栄えある大賞を受賞された作品となります。あらすじから見るとかなりごった煮の要素が強そうですが、大賞を絶賛と共に受賞されたという事でどんなレベルの高い作品であるのか。楽しみにしたいと思います。

 

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魔女と始める神への逆襲 道化の魔女と裏切られた少年 著:水原みずき先生 絵:紅緒先生

 

二作品目はこちら。こちらは金賞を受賞された作品となります。どうやら衝撃の真実が待っているとの事ですが、どんな衝撃の事実が来るのか。どんでん返しを楽しみにしたいと思います。

 

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母親がエロラノベ大賞受賞して人生詰んだ せめて息子のラブコメにまざらないでください 著:夏色青空先生 絵:米白粕先生

 

三作品目はこちら。こちらは銀賞を受賞された作品だそうです。ファンタジア文庫でお母さんと聞くと、某通常攻撃なお母さんを思い出すのは私だけでしょうか(苦笑)。そこはともかく、今度はどんな強力なお母さんが来るのか。その力を楽しみにしたいと思います。

 

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シェアハウスで再会した元カノが迫ってくる 著:くろい先生 絵:にゅむ先生

 

四作品目はこちら。こちらはファンタジア文庫でかつて先輩との同棲を題材にされたラブコメを手掛けられていたくろい先生の新作となります。今度の舞台はシェアハウス、そしてイチャ甘ではなくじれ甘ラブコメとの事で、どんなラブコメとなるのか。楽しみです。

 

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転生王女と天才令嬢の魔法革命3 著:鴉ぴえろ先生 絵:きさらぎゆり先生

 

五作品目はこちら。このブログでも記事にしてきたシリーズの続刊となります。今巻は何やら重要な転機となる巻との事で、果たして彼女達がどんな決断を下すのか。そこに期待したいと思います。

 

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剣と魔法の税金対策 著:SOW先生 絵:三弥カズトモ先生

 

ではここよりはガガガ文庫の紹介です。まずはこちら。様々なレーベルで独特の世界観の作品を刊行されておりますSOW先生の新作となります。ファンタジー世界で税金対策とは果たして何ぞや? 独自の着眼点から始まるファンタジー、期待が止まりません。

 

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育ちざかりの教え子がやけにエモい3 著:鈴木大輔先生 絵:DSマイル先生

 

二作品目はこちら。このブログで記事として書き、追ってきたシリーズの最新刊です。今度は何やら変化と成長の巻との事で、どんな展開が待っているのか。変わらず楽しみです。

 

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僕を成り上がらせようとする最強女師匠たちが育成方針を巡って修羅場2 著:赤城大空先生 絵:タジマ粒子先生

 

では最後、三作品目はこちら。このブログで記事にいたしました作品の続刊となります。今度は何やらあらすじの時点で厄介事の気配がしますが、どんな騒動と成長が待っているのか。楽しみにしたいと思います。

 

以上、期待の9作品でした。ではまた来週になりましたら読んでいきます。

読書感想:カンスト村のご隠居デーモンさん ~辺境の大鍛冶師~

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。例えばファンタジーの世界において英雄と呼ばれるような功績を為した人物達は、果たして本当の意味で幸せであると思われるだろうか。私達の現実世界でも、例えば会社勤めならば出世する度に名誉と共に、色々な責任や柵が増えていくものである。では、もしそれを最高まで、それこそカンストするまで極めてしまったのならば、それはきっと生きづらい人生になってしまうのではないだろうか。

 

ステータスも魔法も存在する、とある異世界。その何処かにある王国の王女であり、剣の皇女とも呼ばれる凄腕の剣豪、アルブレア。彼女は王宮付きの吟遊詩人、ギルメウスより唆される。この国の端には大悪魔が住む村がある、悪魔祓いこそは騎士の誉れであると。

 

だがしかし、そこに住んでいたのは大悪魔であっても悪い悪魔ではなかった。その大悪魔の名は「公爵」。(表紙左)。心優しき隠居の公爵であり名だたる武器を手掛けた鍛冶師であり、そして伝説に名を残した救国の国父。彼の元に仕える目つきの悪いちびっこメイド、ヨート(表紙右)。彼女もまた伝説に名を残す、強大無比なる魔剣であった。

 

そう、かの村は只の村ではなかった。老若男女、様々な人種が入り乱れている事だけが特徴に見えるその村は、実は様々な伝説に名を残した英雄達の隠れ里。過ぎた力を持ち人の輪に入れず放浪した英雄達が手に入れた終の棲家だったのである。

 

酸いも甘いも知り、人々の営みも、移りゆく心もこれでもかと目撃してきた。だからこそここしかない。同じ痛みを知るからこそ分かり合える。そして人生を何処までも味わってきたからこそ、皆何処か達観し、老成している。

 

そんな温かく優しい村で、公爵達に歓迎され村の本質を目撃し。騎士であろうと己を縛り付けていたアルブレアは、迷いを振り切り、本当の意味での騎士として、誇り高き英雄、その生まれたての一人として目覚めていく。

 

「私を突き動かすのは唯一つ。騎士の誓いだ。無辜の命を護る、ただそれだけのこと!」

 

例えどれほど傷を背負おうと、その背に守るものあらば幾度でも立ち上がり、決して折れず悪を断つ。その姿、正に英雄。そう呼ばずして何と呼べばよいのか。

 

正に春の陽だまりのように温かく、優しく。それだけではなく教え導く熱さと目覚め成長し、雄々しく戦い新たなる英雄となっていく熱さも共に。

 

そんな面白さがあるこの作品を、面白いと言わずして何と言えば良いのか。

 

独特の温かさが好きな読者様、王道の熱さ溢れるファンタジーが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

カンスト村のご隠居デーモンさん ~辺境の大鍛冶師~ (GA文庫) | 西山暁之亮, TAa |本 | 通販 | Amazon

 

読書感想:神角技巧と11人の破壊者 上 破壊の章

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。鎌池和馬先生と言えば、貴方に取っての代表作を聞かれれば一体何と答えられるだろうか。無論、その答えは読者の皆様それぞれによって異なるだろう。どれしもが代表作であると言える程に知名度が高く、それほどに刊行されているシリーズ作品が多いからである。

 

ではこの作品の感想を書いていく前に、まず初めに予め述べておくと、この作品は三か月連続刊行が決定している、言わば三部作の作品の序章である。そして、とあるゲームプロジェクトのシナリオを小説として刊行したものであるらしい。

 

ではこの作品はどんな作品であるのか。その答えは只一つ、超常的な力を持つ巨大な兵器同士がぶつかり合う、最強対最強のバトルという事である。

 

とある異世界には十人の超常的な力を振るう者達がいた。その力の名は「神角技巧」。人類の技術や文明でも対抗不可能な生命体、「邪神」の角を取り込み核として創り出された、絶対的な兵器。

 

破壊も創造も自由自在。そんな無敵な力を受け継いだ一人の少年がいた。彼の名はミヤビ(表紙右下)。辺境の村の木こり見習である彼は神角技巧とその所有者同士の戦いに巻き込まれ、所有者の一人であったメビウスという男から、神角技巧を譲り受ける事となる。

 

彼が受け継ぎし神角技巧の名は「ルシフェルホーン」。悠々と無人で空を往く、自由自在に作り出した砲撃を撃ちだす、強大無比なる爆撃機

 

その力を手にしたミヤビの元へ迫る喫緊の課題、巨大な商会の一人娘であるセリーナ。彼女が操縦する神角技巧、巨大装甲列車シュバルツシュッツェ。

 

そして、ミヤビが戦わなければいけぬ敵は十人の所有者の中にいる「十一人目」。一都市を消滅させる程の威力を持つ特殊な爆弾を用い、気紛れに混沌と被害を齎す謎の敵。

 

その脅威を止める為、錬金術を使いこなすエルフ、アリシア(表紙左)、唯一確認されている邪神の幼体のアルマ(アリシアの手の中)、アルマの監視の為に派遣された役人、ヘレナ(表紙右上)と共に旅に出るミヤビ。

 

十一人目を追い旅をするミヤビの前に立ち塞がるは、何れも強大無比なる神角技巧とその所有者。ぶつかり合うしかない状況は続く、故にこそぶつかり合う。

 

セリーナとシュバルツシュッツェと激突したかと思えば、雪の国を往く、巨大なる騎士の槍とその所有者と激突する事となったり。

 

そして戦いの中、只の少年であったミヤビは徐々に成長し、「力の意味」を手に入れる。何故壊し、創造するのか。その力を何のために振るうのか、という意味を。

 

「お前は悪くない。今までみんなの命令を聞いてくれてありがとう、本当によく頑張ったな」

 

神角技巧を破壊する度、その力と宿されていた思いを受け継ぎ、彼は進んでいくのだ。

 

気持ちの良い熱血系主人公が好きな読者様、巨大な力同士のぶつかり合う戦いが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

神角技巧と11人の破壊者 上 破壊の章 (電撃文庫) | 鎌池 和馬, 田畑 壽之, はいむら きよたか, 田畑 壽之, はいむら きよたか, 田畑 壽之 |本 | 通販 | Amazon

 

 

 

読書感想:転生魔王の大誤算2~有能魔王軍の世界征服最短ルート

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前巻感想はこちら↓

読書感想:転生魔王の大誤算 ~有能魔王軍の世界征服最短ルート~ - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

さて、この巻の感想を書いていく前に画面の前の読者の皆様に一つ、問いを投げかけてみんとする。王という者、為政者という人種に取って重要な要素とは何であろうか。臣下の民に差し向ける為の優しさであろうか。否、それだけではないと貴方は思われるだろうか。優しいだけではなく時に厳しく。自らの臣下に害を為そうとする敵を容赦なく叩き潰す苛烈さと冷酷さも時には必要ではないだろうか。

 

部下にどんどん持ち上げられ押し上げられ、最早逃げる事もままならぬ。故に始まる、魔王ケンゴ―による人界侵略作戦。その目標となった、魔族の領土にほど近い国、ベクター

 

「それがなぜ、こんな惨状になっておるのだ!」

 

が、しかし。怠惰の魔将であるベル原に無血で、苦痛を与えず、天寿を全うさせてやれと一見すると無理難題な形、ケンゴ―本人からすれば長期的な作戦を命じてみれば、ベル原の十八番の睡眠魔法による作戦であっさりと王都は陥落し。

 

そんなツッコミから始まる今巻は、占領政策のお話であり、戦争に付き物の占領、そして占領地の統治に関するお話である。

 

一先ず人々を眠りから叩き起こし、大衆の心に訴えかけたり無料の診療所を開いてみたり。前世が小市民であるからこその平和的、最早占領地の人々に媚びるかのような政策を打ち出すケンゴ―。

 

だが、そんな彼の政策を邪魔する者がいた、よりにもよって獅子身中の虫という形で。彼の邪魔として秘密裡に立ち塞がるのは強欲の魔将、マモ代である。

 

強欲であるがゆえに、陛下の全てが欲しい。その地位ですらも。だが博打は趣味じゃない。だから陛下に副作用のある霊薬を飲ませたり、セレモニーを邪魔したり、民衆を扇動したりと様々な手を打ち、迂遠で壮大な策を仕掛けてゆく。

 

しかし、正に策士策に溺れるとはこの事か。マモ代も想定していなかったレベルで、ケンゴ―という希望は民衆にとって魅力的であり。故に彼女の知らぬ間に計画は崩れ、彼女は魔族殺しに特化した天使を相手取り、戦う事となってしまう。

 

「無論、おまえのような忠臣を喪うのは、余の損失だからだ」

 

だがしかし。無論、臣下の危機を黙って見過ごす魔王に非ず。

 

「よくわかった」

 

その胸に宿るは天帝への怒りと天界との決別の思い。臣下を守り、敵を討つ。魔王という立場への自覚の第一歩。

 

前巻が世界観紹介と舞台づくりであるのなら、今巻からが本当の意味での始まり。魔将達それぞれに光を当てつつ、ケンゴ―の成長を描きだすのが今巻である。笑えて燃えられる、そんな面白さが更に高まるのが今巻なのである。

 

前巻を楽しまれた読者様、笑えて心熱くなるファンタジーが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:ダークエルフの森となれ2 -現代転生戦争-

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前巻感想はこちら↓

読書感想:ダークエルフの森となれ ―現代転生戦争― - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

さて、前巻からイラストレーター様の交代というイベントを経験した今作品であるが、画面の前の読者の皆様は前巻と今巻、どちらの方がお好みであろうか。個人的な感想としては、ニリツ先生=褐色というイメージが何処かにあるので、これはこれで良いと思う次第である。

 

しかしそんなイベントを経れど、この作品でやる事は変わらない。生き残りを賭けた魔術種同士の死闘はまだまだ続いている。なれば練介とシーナのやる事は変わらない。敵に備え、敵が現れたのならば殲滅する事、それのみである。

 

「好きです。私と付き合ってください」

 

画面の前の読者の皆様、何だかシーナの台詞にしては言葉遣いがおかしいと思われただろうか。それもその筈、このセリフはシーナのものではなく、練介に諍いを仲裁され彼に惚れた整備科の下級生、万離からのものである。

 

「へぇーえ。つまり・・・・・・浮気の報告ってことか?」

 

「違う。全然違う。むしろ俺にやましいことは何もないっていう報告だ」

 

何処か拗ねたように、あるいは焼きもちを焼いたかのように。だけど練介の心は何があっても変わらない。何故なら既に彼はシーナの眷属であり、全ては彼女の物だからである。

 

けれど、彼女は別の意味で練介の心をかき乱す事となる。何故ならば、学校に潜入していた魔術種の一体、その眷属こそが彼女であったから。

 

その主の名にして新たなる敵となる魔術種の名はギライザ。一体ずつは弱いけれど、群れる事で力となり、全ての個体はただ一体の女王へと奉仕する種族、その名はゴブリン。そして一人でありながら無数という特性を持つ眷属こそが万離である。

 

ゴブリン達の望むもの、それは「全て」。欲しいと言う欲望のままに、何もかもを盗んで見せる。例えそれが形のないものだとしても。その在り方を示すかのように、万離もまた何処か壊れたように練介へと迫る。

 

「見ててほしい。私は駄目で愚図だけど、頑張るから、見てて。頑張るのを、見てて・・・・・・」

 

その根底にあるのは愛への渇望と果て無き孤独。まるで成し遂げられなければ死んでしまうとでもいうかのような、恍惚で狂的な懇願。

 

「お前のことが、少しだけわかってきたからさ」

 

「悪いな。お前の気持ちには応えられない」

 

その懇願、自分と「同じ」少女の懇願を受けて尚。練介は戦う、眷属として。彼女を倒すべき敵として、眷属としての新たな力の形を目覚めさせながら。

 

前巻の黒さとまた違う黒さ、壊れ人間を逸脱しながらも、人間臭さを失わぬバケモノ達の苛烈な戦いはまだ、終わらない。

 

前巻を楽しまれた読者様、ダークなSFファンタジーがやはり好きという読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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読書感想:忘れえぬ魔女の物語

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想像してみてほしい。私達が今、何気なく過ごしている今日という一日が何度も繰り返されていて、繰り返しの中から自分の意思ではない意思により、記憶として残る一日が決まるとしたら。何度も何度も繰り返した同じ日の記憶は自分の中には残ってないとしたら。画面の前の読者の皆様は何を思われるだろうか。何を選ぶであろうか。

 

この世界は何度も何度も、同じ一日を繰り返す。その平均回数、一日につき約五回。その繰り返しの中から、世界にとっての一日が世界により選ばれ、日付は進む。

 

それは誰も知らぬ筈だった、覚えていない筈だった。だがしかし、幸か不幸か。繰り返しがあったという事実を覚えている少女が、一人だけいたのだ。

 

彼女の名前は綾香(表紙右)。繰り返しがあった事を何故か自分だけが覚えているという呪いに罹る、今年高校一年生の少女。

 

彼女を疎む家族につけられた渾名、それは「魔女」。何故彼女は疎まれる事になってしまったのか。それは幼少期より繰り返しの分だけ人生経験を獲得してしまい、自分だけが覚えている記憶のせいで周囲とすれ違う事となってしまったから。

 

そんな大人な彼女は、繰り返す日々の中で一人の少女と出会う。その少女の名は未散(表紙左)。大人になったら魔法使いになると嘯く、社交的でクラスの中心が如き人物である。

 

「わたし今日サンドイッチなんだけど、稲葉さんも食べる?」

 

何度も彼女が昼食を忘れるのを見て手を差し伸べ。そこから始まる未散との交流。今日を越えた今日、繰り返す日々の中で友達になってくれた彼女との時間。

 

「二人だけの秘密だよ」

 

彼女の言葉に一喜一憂し、何でもない贈り物が何故か妙に嬉しくて。

 

「どうして毎日を退屈だと感じているのに、稲葉ちゃんと過ごす時間は何度繰り返しても楽しい時間のままなのか」

 

喧嘩したって仲直りして、いつしか彼女と過ごす日々は楽しいものとなっていた。

 

「ねえ、今どんな気持ち?」

 

「未散と同じ気持ちよ、きっと」

 

心通じ合い触れ合い、初めてのキスを交わした。だが、そのまま幸福なままではいられなかった。突然襲われる、未散を襲う様々な不幸と齎される死の因果、その果てに容赦なく確定される今日。

 

「あんた、魔法使いなんでしょ」

 

身近にいたもう一人の魔法使いの手を借り、綾香は今日を捨て昨日へと舞い戻り、未散を救う為の戦いの日々を始める。

 

それは、絶対的な力を持つ「世界」へとたった一人で突き立てた反逆の牙の物語。何度彼女が死のうとも、自らを殺す事でまた繰り返し、どれほど自分を削ろうとも歩みを止めぬ、まるで自己犠牲かの如き献身と愛。

 

「だいっきらい」

 

「うん、ずっと一緒にいるから。一人にしないから」

 

そして綾香の死闘は、1095776日の「今日」は無駄ではなかった。彼女の戦いにより世界は徐々に壊れだし、未散もまた思い出していたのだ。彼女が未来から来た事、未来に確かに希望があるという事。

 

「夢になったの。綾香が見たものは」

 

「信じて。全部私が夢にしたの」

 

繰り返しの果て、繰り返した「今日」を捨てて掴んだもの。それは誰にとっても同じ、一度きりの「今日」だった。

 

この作品は、切なく痛ましい作品である。そして不器用で繊細な、お年頃の少女達の思いが交わる百合な作品である。

 

そして、「忘れえぬ魔女」と「忘れえぬ魔女」、二人の魔法使いのお話なのである。

 

だからこそ、この作品にはたった一言、「尊い」。この言葉がぴったりな筈である。

 

繊細な心理描写が好きな読者様、しとやかで初々しい百合が好きな読者様、尊さで悶えたい読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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