読書感想:カンスト村のご隠居デーモンさん ~辺境の大鍛冶師~

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。例えばファンタジーの世界において英雄と呼ばれるような功績を為した人物達は、果たして本当の意味で幸せであると思われるだろうか。私達の現実世界でも、例えば会社勤めならば出世する度に名誉と共に、色々な責任や柵が増えていくものである。では、もしそれを最高まで、それこそカンストするまで極めてしまったのならば、それはきっと生きづらい人生になってしまうのではないだろうか。

 

ステータスも魔法も存在する、とある異世界。その何処かにある王国の王女であり、剣の皇女とも呼ばれる凄腕の剣豪、アルブレア。彼女は王宮付きの吟遊詩人、ギルメウスより唆される。この国の端には大悪魔が住む村がある、悪魔祓いこそは騎士の誉れであると。

 

だがしかし、そこに住んでいたのは大悪魔であっても悪い悪魔ではなかった。その大悪魔の名は「公爵」。(表紙左)。心優しき隠居の公爵であり名だたる武器を手掛けた鍛冶師であり、そして伝説に名を残した救国の国父。彼の元に仕える目つきの悪いちびっこメイド、ヨート(表紙右)。彼女もまた伝説に名を残す、強大無比なる魔剣であった。

 

そう、かの村は只の村ではなかった。老若男女、様々な人種が入り乱れている事だけが特徴に見えるその村は、実は様々な伝説に名を残した英雄達の隠れ里。過ぎた力を持ち人の輪に入れず放浪した英雄達が手に入れた終の棲家だったのである。

 

酸いも甘いも知り、人々の営みも、移りゆく心もこれでもかと目撃してきた。だからこそここしかない。同じ痛みを知るからこそ分かり合える。そして人生を何処までも味わってきたからこそ、皆何処か達観し、老成している。

 

そんな温かく優しい村で、公爵達に歓迎され村の本質を目撃し。騎士であろうと己を縛り付けていたアルブレアは、迷いを振り切り、本当の意味での騎士として、誇り高き英雄、その生まれたての一人として目覚めていく。

 

「私を突き動かすのは唯一つ。騎士の誓いだ。無辜の命を護る、ただそれだけのこと!」

 

例えどれほど傷を背負おうと、その背に守るものあらば幾度でも立ち上がり、決して折れず悪を断つ。その姿、正に英雄。そう呼ばずして何と呼べばよいのか。

 

正に春の陽だまりのように温かく、優しく。それだけではなく教え導く熱さと目覚め成長し、雄々しく戦い新たなる英雄となっていく熱さも共に。

 

そんな面白さがあるこの作品を、面白いと言わずして何と言えば良いのか。

 

独特の温かさが好きな読者様、王道の熱さ溢れるファンタジーが好きな読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

カンスト村のご隠居デーモンさん ~辺境の大鍛冶師~ (GA文庫) | 西山暁之亮, TAa |本 | 通販 | Amazon