読書感想:無能と蔑まれた貴族の九男は最強へ至るも、その自覚がないまま無双する1

 

 さて、時にタイムスリップという概念は存在している訳であるが、十年単位ならともかく百年単位でタイムスリップしてしまうと、見慣れた景色は全く別物に変わってしまうであろう。地形だって変化しているかもしれないし、あった筈の街は無くなっている、という事もよくあるかもしれない。しかしそんな技術は未だ、この世界には存在していない訳で。タイムスリップというお話もきっと夢のまた夢、であるのだろう。

 

 

そんなタイムスリップ、という概念は科学ではなく超常の力、所謂魔法が存在している世界であれば、魔法という形で実現される事も時々ある。この作品はそんな、タイムスリップから始まる作品なのだ。

 

魔法やスキルといった概念が存在するとある異世界。この世界の有力貴族、その九男である少年、ラディ(表紙左)。彼が授かったのは「鷹鵜眼」というただ、よく見えるだけのハズレスキル。無能と父親含む周囲から蔑まれ、街に出て野良猫を助けたところで見つけたのは発生したばかりのダンジョン。誰も信じてくれぬ中、唯一信じてくれた偶々やってきていた冒険者、カーティスに協力してもらい、ダンジョンへ向かってみることに。

 

「言ったはずだぞ?  俺の番だ、と」

 

そこに待ち受けていたのは邪悪な竜。カーティスと二人では勝てぬ相手。そこでラディが打ったのは、自身の命を顧みぬ一手。精神と肉体を分断する魔道具を使い、自身と共に邪悪な竜を封印し。精神の世界で一億回も殺された後、蓄積されていた怒りが解き放つのはスキルの「真の力」。全てを見通し、見た相手の魔法やらスキルをコピーする力に目覚め、竜をボコボコにし、呪いにより核とされた女神、アエリア(表紙右)を助け出し。封印を破って外に出ることに成功する。

 

だがそこは時間の流れが異なる世界にいたからか、数百年が経過しており。かつて暮らした屋敷も街もなく、それどころか魔法もスキルもなかった。自分達の知らぬ間に現れていた「大賢者」、と呼ばれる存在がスキルも魔法も解体、体系化した「魔術」という存在に再編しており。今は運ではなく、努力の才能が求められる時代になっていたのだ。

 

そんな世界で、魔法の時代の最後の生き証人たるラディの力は正に最強。だが無能と蔑まれてきたからこそ、その常識が刷り込まれており最強という自覚はなく。

 

「なら、いいじゃねぇか、それで」

 

だけど、目の前の不条理は許せない。虐げられる人々、虐げられ隷属させられる神々。最初に辿り着いた街で出会ったウェイトレス、エルマを助け。そこにやってきた「魔操王」なる圧政者の手先を退け。魔操王との戦いへと状況が移行する中、思いを押し殺されている人々を救っていくのだ。

 

そんな、一皮むいたら中々ハードな世界の中、ひたむきに進んでいくこの作品。熱めなファンタジーが読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

無能と蔑まれた貴族の九男は最強へ至るも、その自覚がないまま無双する 1 (オーバーラップ文庫) | メグリくくる, コダマ |本 | 通販 | Amazon