読書感想:魔王と勇者の戦いの裏で1 ~ゲーム世界に転生したけど友人の勇者が魔王討伐に旅立ったあとの国内お留守番(内政と防衛戦)が俺のお仕事です~

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 さて、画面の前の読者の皆様の中で、ドラゴンクエストシリーズをプレイされた事のある読者様は、きっと大勢おられるであろう。ドラクエに限らず、ファンタジー系のゲームにおいて勇者と言うものは、大体の場合において魔王を倒す為に旅に出るものである。それは良いとして、画面の前の読者の皆様は勇者が旅をしている間の、母国と言うものを考えてみてみられた事はあられるであろうか。勇者が冒険をしている間、母国では何が起きているのか、そんな事を想像してみてこられた事はあるであろうか。

 

 

RPG系のゲームにおいては描かれる事の少ない、いわば物語の裏であるそんな場所。しかしそんな場所にだって物語があり、そこで生きている人達がいる。この作品はそんな場所と、RPGのお約束を理詰めに、現実的な目で描いていく作品なのである。

 

文官系の伯爵家の次男である少年、ヴェルナー(表紙中央右)。彼はある日、兄と共に馬車の事故に巻き込まれ兄を喪った事で、前世の記憶、特に語る所もない下流に近い平凡な社会人であったと言う記憶を思い出す。

 

 が、しかし。記憶を取り戻した事でヴェルナーは一つの事実を思い出す。この世界は、王道的なファンタジー系ゲームの世界である。そして実は、その物語は始まってすらいないという事。何れ彼の住まう王都には破滅の時が来ると言う事を。

 

勇者の旅の途中、四天王の襲撃によりこの王都は滅びる。そして自分はその中に巻き込まれるその他大勢、名もなきモブの一人。だが、そんな事を許容するわけにはいかぬ。生き延びる為、彼は戦いを始める。

 

学び舎である王立学園に通っていた「勇者」、マゼル(表紙中央左)と親交を結び、悪役兼親友となり。まずは小手調べとばかりに始まるゲーム開始イベント、「魔物暴走」。

 

「今だ、押し返せっ!」

 

 魔物達の大氾濫の中、高位貴族すら戦死するような地獄の戦場。その中で巧みに集団戦を指揮し、敵の隠された意図すら読み取り獅子奮迅の活躍。ヴェルナーのその働きは、ゲームの歴史に定められていた敗北ではなく勝利を導き。それにより、一気に幕を開ける。誰も知らぬ未知なる歴史が。

 

活躍を見せた事で、本来の歴史では死んでいたはずの王太子、ヒュペルトゥス(表紙)の注目を引き、興味を抱かれ。更には特に関わりもない筈であったマゼルのヒロイン、第二王女であるラウラ(表紙左)とも出会い。おまけと言わんばかりに、武門の貴族の少女、ヘルミーネ(表紙右)から尊敬され、崇められる事となり。

 

 子爵となり、マゼルの対外的な窓口に任命され。面倒事を背負わされたヴェルナーは、一貴族として縦横無尽の活躍をする事となっていく。

 

マゼルの元へそれとなく、勇者パーティとなる仲間達を導き。多くの武具を手配する為に商隊と斥候、傭兵から成る大規模ネットワークをばら撒き。更には魔族の襲撃から砦を守る為、様々な準備を施していく。

 

「勘違いするな。お前たちは俺が殺した」

 

 時に処罰の為に剣を振るい、最前線を駆け抜けていく。しかし、未だ物語は始まったばかりに過ぎない。まだ何もかもが始まったばかり。多くの死者を出しても尚。

 

便利な道具なんてほぼない、通信技術なんて以ての外。だからこそ一からコツコツと、様々な謀を巡らせ、権謀術数の中心で踊り、誰かを躍らせていく。

 

しかし驚く事無かれ、なんと未だメインヒロインすら登場していない。そんな事を聞かされて驚いてしまう位に、この作品は骨太かつ重厚。

 

そして、何処までも緻密かつ精密に、それこそ一部の狂いもなくくみ上げられている。

 

だからこそこの作品、正しく骨太な面白さがある。故に、何処までも面白さが深いのである。

 

深みのあるファンタジーを読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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