読書感想:聖女先生の魔法は進んでる!1 落ちこぼれの教室

 

 さて、時に聖女と聞いて歴史が好きな読者様はジャンヌ・ダルクという名前を思い浮かべるかもしれない。ファンタジー好きな方であれば、勇者パーティという言葉を思い浮かべるかもしれない。その印象は正しい、かもしれない。では聖女、というジョブの役割を画面の前の読者の皆様はどんな印象を抱かれているであろうか。やはり基本的には後方支援、という印象が多いだろうか。基本的には、神官の上位互換、パーティにおいては回復役、という印象だろうか。

 

 

どこぞのアニメみたく、雷を纏って極大の一撃を叩き込む聖女なんぞそうはいないものである。しかしこの作品における聖女、であり先生であるティア(表紙右)は、そんな、そうはいない方の聖女である。後方支援どころか前線に突っ込んでいって派手に暴れ回っている方なのである。

 

人間の国であるグランノア聖国、魔族の国であるアシュハーラ魔国。二つの国によって二分されているこの世界には、世界の歪みが蓄積して生じた異空間、ダンジョンが存在し。聖女は教会で祈りを捧げ都市を守る結界を維持する事、ダンジョンを浄化してダンジョンの拡大とモンスターの発生を抑制するのが仕事であった。しかし、聖国で四年前に起きたとある事件により多くの騎士と聖女が亡くなり。結果的に、聖国政府は聖女たち戦力を中央に集める政策を推し進め。聖女の権力の低下、そして地方を見捨てる政策により。聖国は今、衰退を始めていた。

 

「先生はバカなんですか!?」

 

そんな国には、「辺境に追放された異端の聖女」と呼ばれるティアがいた。その四年前の事件で親友であるジェシカを亡くし、家族として引き取ったトルテ(表紙中央上)を指導しながら、国の政策に逆らい、辺境にてダンジョン浄化に励む彼女。彼女に届いたのは、王都に住まう聖女筆頭でありかつての友人、レイナからの文。落ちこぼれの聖女見習いを引き取らないか、という素直ではない誘いに応じ。道中で力で従えた亜竜(!?)を足として。王都に急行していた。

 

「明らかに先生が非常識なので、大丈夫ですよ」

 

王都で出会ったのは、聖国のお姫様であるアンジェ(表紙中央右)、魔国の皇女であるエミー(表紙中央左)。2人を引き取ることになり、廃棄された砦を改修した教会へ辿り着き。程なくして、エミーとアンジェはティアの非常識に過ぎる部分を見せつけられる事となる。

 

聖女が主に使えるのは「浄化」、「結界」、「祝福」。魔法としてはサポート系に分類され、間違えても戦いに使える、訳ではない魔法。そんな魔法をティアは掃除に用いたかと思うと、祝福の桁違いの出力で作物の成長段階をかっ飛ばしてみたり。最早ツッコミが追いつかぬ、それどころかついていく事も大変。まず強くなりたい、というエミーが懐き、ジェシカの縁者であったアンジェも、憎悪をぶつけた後に受け止められて、蟠りを解いて。

 

「・・・・・・この子たちには、誰も失って欲しくないですね」

 

自分を慕ってくれて、国に叛逆しようとしている自分にも迷わず、ついていくと宣言してくれて。今までは一人だった自分の道、その後に続こうとする者達にその頼れる背中を見せつけて。まずは一つ、ダンジョンを浄化しティアは動き出す。

 

その裏、仲間達と共に動くレイナはきな臭さを感じ取る。四年前の事件、その陰謀はまだ続いている事を。そして、その魔の手はどうも王家にまで及んでいるらしいと言う事を。

 

きな臭さのある油断できぬ舞台の中、少女達の成長と言う輝きが光る今巻。ガールズファンタジーが好きな方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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