読書感想:貞操逆転世界ならモテると思っていたら

 

 さて、最近のラノベ界において徐々に流行を始めているものとして、貞操逆転もの、というのがある。とても簡単に言ってしまえば男女の貞操観念が逆転した世界もの、という訳なのだが。ラノベの流行は読者の心理を反映している、とも言われるが貞操逆転ものが流行ると言うのはどういう心理なのだろうか? リードされたい男子が多い、のだろうか。それはともかく、貞操逆転ものというのは基本的にはハーレムという要素も絡んでくるのが王道であるが。その場合、重要なのは何であろうか。

 

 

それはやはり、主人公の魅力であろう。ハーレム、というのも納得。ヒロイン達から好かれるのも納得、それが前提条件であるのかもしれぬ。ではこの作品の主人公、郁人(表紙中央)はどうなのだろうか。その辺りにも注目しつつ、早速見ていこう。

 

男女比1:20。男女の貞操は例外なく逆転しており、男子というのは街を歩くだけでもサバンナの中を草食動物が歩くようなもの。そんな男子たちを守り、周囲との円滑なコミュニケーションの橋渡しをする「男性護衛官」という存在がある世界。そんな世界に転生し早くも十五年、かつての世界での常識を持つからモテたいと願うも、何故か彼は女性から声がかからず。何故かと言うと、親友でもある護衛官、留衣(表紙右)が常に一緒に居るから。完璧ハイスペックな王子様キャラな留衣との仲を応援され、その間には入れないとある種尊まれているから、彼に声をかける女子はいなかったのだ。

 

「全く・・・・・・君はまたそんな期待させる事を無自覚に言って・・・・・・」

 

そんな現状を嘆きつつ、いつかはと願って生きる郁人。そんな彼の隣、護衛官である親友の留衣は微笑むも、親友同士だからこそ気安い彼の行動に、何故か頬を赤らめたり。

 

「いや、当たり前のことをしているだけだけど?」

 

そして時に、誰にでも優しい郁人に呆れたり。彼からすれば前世の記憶もあって当たり前、しかしこの世界においては誰にでもワンチャンを感じさせるもの。いわば爆薬倉庫の前で花火を振り回すようなもの。

 

「郁人だけは・・・・・・わたしの本当の姿を受け入れて欲しい・・・・・・」

 

その無自覚な行いのあおりを一番近くで受け、それを独占したいと理由を絞り出している留衣。何故そんな事を、と思うと表紙を見れば我々読者は分かるであろう。何を隠そう、留衣は女の子。郁人の前では性別を偽って、その裏に受け入れて欲しいと言う本心を隠している。

 

「別に外見だけで留衣の全てが決まるわけじゃないだろ?」

 

裏に薫るは恋心。今まで、男性の好みとは真逆の身体のせいでレッテルを貼られ、偽ることでしか自分を出せず。だけどそんな柵をあっさり、郁人だけは壊していった。彼ならば、という思いがその原動力。

 

「郁人―――わたしの本当の姿を見て」

 

その秘密は、バレる日が来る。林間学校の迫るある日、雨に降られた事で彼の家でお風呂を借りることになり。ふとしたことから聞き出した彼の、好みという本心は自分にもしっかり当てはまっていて。大義名分、ゴーサインを得た留衣は本当の自分を伝え。すぐに何かが変わる、訳ではないも確かに女性だ、という意識を植え付ける事には成功する。

 

「市瀬君は特別な男の子ですから。・・・・・・・私たちにとって」

 

しかし、フラグは一つ解禁されれば、更に負けじと立っていく。林間学校で同じ班となった委員長の千夜(表紙左)。持ち込まれる縁談を全て断っていると言う彼女は、郁人と過去に関わりのある事を仄めかし。彼にぐいぐいと、アプローチを仕掛けていく。

 

「隣には常に俺がいる」

 

 

そして、ついに始まる林間学校。様々なイベント、溢れる中で男子からいわれなき中傷を受ける留衣。彼女を守る為、前に守るように、護衛するように立って。毅然と告げる、彼女の良さと努力していると言う事。そんな格好良さに留衣がまた惚れ直して。一つ、彼女の中で心が変わり郁人の望みも少しだけ叶えられる。

 

だけどまだ、彼は知らぬ。いとこであり弟、である玖乃(表紙上)。兄弟のような関係だからこそ気安い、しかし玖乃の本当の性別も、その裏に醸成されている思いも。

 

ヒロインの可愛さという甘さに、主人公の魅力をスパイスの様に搦めて。 ラブコメとしてとても美味しく仕上がっているこの作品。 貞操逆転もの、その面白さに触れてみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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