読書感想:魔王討伐から半世紀、今度は名もなき旅をします。

 

 さて、画面の前の読者の皆様の中にもかの大人気アニメ、「葬送のフリーレン」をご覧になられた読者様はおられるだろう。かの作品において描かれていたのは勇者パーティーの冒険のその後、というのはもう基本知識であるとして。そう、勇者パーティーを基本的に人類に属する者達の集まりと見なすのならば、魔王を倒す冒険、というのはとりあえず平均寿命を現代日本くらいと仮定してみると、その人生の何分の一、もしくは何十分の一であり。冒険のその後の方が長い、のは明白である。

 

 

そして魔王を倒した、という事は平和になった、という事であり。勇者パーティーも普通の人生に戻ると言う事。戦いばかりよりきっと、その方が楽しい筈であろう。この作品はそんな、魔王討伐から半世紀後、平和が浸透し勇者パーティーの旅がおとぎ話となったころのお話なのだ。

 

『再び道を辿りにゆくが良い。私の叶えられなかった望みを果たしに』

 

「儂はこれから旅に出る」

 

魔王討伐から半世紀を祝うとある王国のパーティーに呼ばれようとしていた、勇者パーティーの「剣聖」、スイルーン(表紙右下)。息子を二人、娘を一人設け、長男が騎士団長、長女が王妃になった後。彼の髪が真っ白に変わった時、かつてこの世界の神である女神と交わした約定が目を覚ます。その約定によりかつて旅をした頃の年へと若返り。騎士団長である息子相手に力を示し、国王様たちも振り払い彼は旅に出る。かつてたどった道を気ままに辿る旅へ。

 

「ふふ。何をするのか知りませんが、抜け駆けはいけません」

 

気ままな一人旅、になる筈がそうはいかなかった。旅立って早々、勇者パーティーの「神官」であったマリウス(表紙右上)がニコニコと笑いながらやってきて、同道する事となり。更には孫娘であり「勇者」候補のアリナ(表紙中央)。勇者パーティーの「魔女」、イレーヌの弟子であるイオ(表紙左上)まで合流、更には落ちていた聖獣が何故かスイルーンに懐き、シンジュ(スイルーンの首元)と名付けられ彼の背中を居場所として定着し。気が付けばまぁまぁな大所帯、かつての勇者パーティーのよう。そんなドタバタな旅路が幕を開ける。

 

「時代は変わりましたね」

 

「平和になった証拠、いいことじゃ―――と、言いたいところじゃが、少々早すぎる」

 

旅先で気ままにご当地グルメを食べたり、聖獣にしては威厳もなくあまり役に立たぬシンジュに困らされたり、かつて自分が手に取って捨てた危険物を自分で処理する事になったり。そんな中、実感するのは時代は変わったという事。 もはやあの闘争の時代は彼方、平和が根付くのはいいけれど、少々平和に馴染み過ぎている、と首を傾げたくなる世界の平穏さの数々。

 

「ああ、見つけた」

 

その中で見つける、女神の力の欠片。それをすべて回収すること、それが本来の目的。全ては果たすべき約束、あの勇者を助け出す為に。

 

心踊る魅力的な旅の中、優しさと熱さが躍るこの作品。旅に心踊らせたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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