読書感想:空冥の竜騎

 

 さて、空を翔ると聞いて画面の前の読者の皆様はどんな作品を連想されるであろうか。マクロスシリーズの、弾幕駆け巡る空を文字通り踊るように駆け回るあの映像だろうか。それともアーマード・コアのように相手の隙を突き攻撃をぶち当ててスタンさせ、強力な一撃を叩き込むような激しい戦闘か。答えは各自連想していただくとして。空を翔る、という言葉には割と多くの場合、戦闘という言葉が伴うのは画面の前の読者の皆様もご存じかもしれぬ。

 

 

この作品もそんな、戦闘、戦争が絡んでくるお話である。八つの国々が主に二つの陣営に別れ戦争を繰り広げるも、別大陸からの介入により結束を余儀なくされ形成した講和路線に基づき七年前に戦争が終わった、ソラーレ大陸。かの戦争にて活躍したのは「竜騎」。神話的生物、「竜」に乗り込み感覚を同調させ空で戦う者達。

 

「後悔してんだろ。空で死ねなかったこと」

 

そんな者達の一人でありエースパイロットであるロナード(表紙右)。戦争が終わった後、彼は危険なマニューバを繰り返し空を飛んでいた。まるで死にたいと言うかのように。だけど死にきれず。共に十年くらい駆け抜けた友、イドラにも諫められる中、彼は竜騎を育成する学校の教官になることになり。だがイドラと最後に飛ぶ機会、謎の敵を追う緊急任務の中。自身のミスによりイドラを死なせてしまい。 ロナードは上官であるスピネルにより不名誉除隊となり、イドラの代わりに教官として左遷されてしまう。

 

「すごくわかりやすかったですよ」

 

目の前にぶら下げられた餌、最前線という死に場所への転属を掴む為。だけど何かやりたい事もない、やるべき事も分からない。空という場所を取り上げられ、死に場所を失い。 そんな中、こっそりと一人練習していた生徒、シエル(表紙左)を少しだけ指導して。同僚となった教師、クリスとのチェスを交えた語らいの中で。少しだけ彼の中、熱が灯っていく。未来の卵達を死なせぬための熱、死に場所を求めるだけではない思いが。

 

そんな熱に動かされ、彼の授業は実戦に即した知識から生まれる内容で人気となり。だけどその最中、水を差す影が。 強硬的な宗教の一派から生まれたテロ組織、その魔の手は実習の場にも、そしてイドラの妻にも伸び。 逃れ得ぬ陰がまたロナードを追ってきて。それを心配するシエルは、クリスの差し金で彼の過去を知り、ある種の特別な繋がりを知る。

 

それはロナードの抜けぬ心の傷、失ってしまった隊長、リコの事。彼女はシエルの姉。自らのせいで死なせてしまったと自身を呪い、罰を求める彼。シエルは彼を罰する事は出来ず。程なくし、国家の代表者も出席する祝典の場はテロリストに狙われ、ロナードは出撃し、すぐ傍に居た黒幕の一人と激突する。

 

「できるとも。このボクが保証するぜ」

 

力及ばず訪れる敗北、やっと望んでいた死、の間際に出会ったのはリコの残されていた魂。救えなかったと言う慟哭は受け止められ、最後に願いを託されて。

 

「俺は飛ぶよ。・・・・・・俺自身のために」

 

目覚めた時、傍に居たのはシエルと、リコの相棒だった竜。 残されていた思いを伝えてくれた彼女の相棒に乗り。 罰、という彼女の為ではなく。自分自身という今生きている者の為に。

 

エースの心に宿る、もう一度燃え上がる真っ直ぐな炎。共に落ちるのではなく、共に飛ぶ。その熱を、ロナードと戦っていた黒幕の一人も思いだし。 二人と、駆けつけてきた一匹で。異端に乗る真の黒幕に、否定の一撃を叩きつけ。

 

「俺なりのケジメだ」

 

その先に自分としてのケジメをつけて。死ぬためではなく生きるために。皆で飛ぶ為に。新たな未来へ進んでいくのだ。

 

駆け抜ける熱さと、交じり合う感情が心に響くこの作品。心熱くしてくれる作品を見てみたい方は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

空冥の竜騎 (講談社ラノベ文庫 か 18-1-1) | 神岡 鳥乃, JDGE |本 | 通販 | Amazon