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読書感想:恋人以上のことを、彼女じゃない君と。 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、順調に二巻が発売されたこの作品であるが、一巻の時点でこの作品には社会人から共感の声が多数あったらしい。その反応を見、ラノベの読者層が変化していると改めて実感したりする訳であるが。やはり社会人、というのは癒しに飢えているのだろう。このくそったれで生きにくい社会の中、歯車の一つとして生きている以上は。
どこかの会社に属していたり、自分が何かの仕事の長であったり。規模の差はあれど、皆社会を回す歯車と言っていいかもしれない。そんな世界の中、繋がった糸と冬。しかし二人の関係は、言ってしまえば歪である。気の置けぬ友人同士、というのは近すぎる。だけど恋人同士というのは遠すぎる。そんな歪な関係であるからこそ、時に不安になるのも仕方のない事かもしれない。
「―――そうだ、いいこと思いついた」
まぁ今は、まだ二人の関係性は変化の時を迎えていない。無事に編集プロダクションへと転職を果たした糸と久しぶりの邂逅を果たしたら、キスされたら五百円の賞金というゲームを持ち掛けられ、何度も唇を奪われたりしながらも。何気ない二人の関係は今日も続いていくのだ。
糸チョイスの映画に付き合い、映画館でスキンシップを繰り広げたかと思えば、二人で家具屋に繰り出し。かと思えば糸の家で怠惰に一日を無駄にしてみたり。
何気ない日々の中、それでも重ねていくのは何故か。それは心地よいから。歪でいつか終わる、という予感はあっても。それでも、と縋りたくなってしまうのがこの社会。
「ラインだけでも、ぼんやり分かるよ」
「好きなことだから本気になれるんだよ」
クソみたいな上司の、無自覚な言葉の刃に心折られ。同窓生の、無知が故に残酷な言葉に心抉られ。そんな思いを、二人だけが分かる。お互いだけが分かるからこそ、そういう時は自然に寄り添える。正にツーカー、阿吽の呼吸。それは、恋人同士ではない二人が持っている、恋人を超えた呼吸。歪だけれど、ここにある思いは本物なのだ。
「一番大事なのは、考えるのをやめないことだと思うんだ」
だからこそ、本物にしたいと。節目の誕生日、その前に舞い込んできた毒親である母親の急死の一報の中。やっぱりクソッたれなこの世界で、冬の気持ちは少しずつ動き出す。考えるのをやめない、でも今は心のままに。隣にいてくれると言う事を享受し、又もう少しだけ頑張ろうと歩き出していくのだ。
前巻にも増して社会が冷たく、だからこその温かさの中でゆっくりと歩き出した変化の芽が愛おしくなる今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
恋人以上のことを、彼女じゃない君と。 (2) (ガガガ文庫 ガも 4-4) | 持崎 湯葉, どうしま |本 | 通販 | Amazon