読書感想:三角の距離は限りないゼロ8

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:三角の距離は限りないゼロ7 - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、いよいよ前巻で春珂と秋玻の統合が始まってしまい、遂に約束の時は来てしまった訳である。故に今巻、四季は選ばねばならぬ、どちらかを。例えそれが残った片割れを一つ消してしまうとしても、同じ陽だまりにはいられぬガラス玉を一つ落っことすとしても。では彼は何を選ぶのであろうか。全ての総決算となるのが今巻である。

 

 

「―――行こうよ、北海道」

 

統合の時が来ても、その選択は四季という年頃の少年にとっては重すぎるものであった。結局その場では選べず、駆けつけた大人達によって春珂と秋玻は宇田路の病院へ向かう事になり。向かう前の最後の一瞬、四季は最後の願いをかなえるために春珂と秋玻を誘い。三人は大人に内緒でこっそりと抜け出し、一路北海道を目指す事となる。

 

「ようこ」「そ矢野くん」

 

「わたし」「たちの宇田」「路へ―――」

 

道中、三人で泊まったホテルで春珂と秋玻が四季に迫ると言う一時を経ながらも、辿り着いたのは春珂と秋玻の始まりの地。北の大地、四季の知らぬ街。

 

その街で、春珂と秋玻の思い出の場所を巡ったり、二人の生家を訪ねたり、かつての恩師との邂逅を経ながら。二人の始まりのルーツ、それを知り選ぶ為の切欠を探す中。どんどんと時間は減っていき、遂には離ればなれになってしまう。

 

「・・・・・・行ってくる」

 

 結局、己は答えを見つけることは出来なかった。己の無力さに打ちひしがれ、一人思考の迷宮に迷いこみ尻込みする四季。そんな彼へと、春珂と秋玻は待っていると呼びに来て。追いついてきた仲間達が二人の遺書を渡し背を押し。もう一度四季は、自分の為すべき事を見つけ出す。

 

ピリオドを打てるのは自分しかいない。だからこそ今、答えを出す。では春珂と秋玻、二人の何方を四季は選ぶのか。

 

 

 

「君の名前を―――矛盾した全てを、教えて欲しいんだ」

 

「僕は―――君が好きだから」

 

―――否、彼は選ばなかった。受け入れた。自分の二人が好きだと言う心も、二人という矛盾もすべて受け入れて。全部ひっくるめて包み込む事を、抱える事を選んだ。纏めるなんて無理だから、だから全部選ぶ。その答えは確かに春珂と秋玻を包み込んで受け止め。本来の自分、「暦美」が。四季がずっと恋をしていた少女が目を覚ますのだ。

 

それは傲慢な答えであったのかもしれない、玉虫色の答えであるのかもしれない。だがそれは春珂と秋玻をずっと見続けてきた四季だからこその答え。その答えを否定することは誰にも出来ぬ。

 

今ここに三角は一本の線となり、点と点の距離は限りないゼロになる。一つに溶けて交わって。その果てに得た答がある限り、彼等はもう大丈夫だろう。

 

そして、新たな「春」の気配はすぐ側に。新たな主人公達の物語の幕開けは、すぐそばまで迫っているのである。

 

どうか皆様も是非、最期まで見届けてみてほしい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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