読書感想:衛くんと愛が重たい少女たち


 さてとある界隈には「愛が重馬場」というタグがあるらしいが、それはひとまず置いておいて、画面の前の読者の皆様は愛が重い、と聞くとどんな行為を連想されるであろうか。独占か、依存か、はたまた何かか。それは皆様の答え次第であるので何とも言えぬが、一先ず確かなことは、愛が重い、というのは時に美しく、時に醜く。いずれにせよ普通のラブコメではない、というより普通のラブコメでは出せないという事なのかもしれぬ。

 

 

ではこの作品はどんなラブコメなのか。それはタイトルにもある通り、愛が重たい少女達によるラブコメなのだ。それはもう、いい意味でドン引きしてしまう程には。

 

主人公である少年、衛(表紙左)。高校二年生、恋に夢を見る繊細な少年。主な特徴、小柄で色白、美形で気弱と言うどこぞの理樹君のような主人公属性。そんな彼の日曜日の朝の日課は女装。

 

「ううん、私だけのものだもんね・・・・・・」

 

しかしそれは彼の本意ではなく。実の姉であり何処か高圧的な態度で衛の心を支配してくる凛(表紙右)により施され、彼女の指示でSNSでも活動させられているもの。

 

更に学校においても、彼は肩身が狭かった。幼馴染であり片想いの相手、瑞希は何故か見せつける様に男をとっかえひっかえし。親友である征矢と過ごす時間だけが癒しだった。

 

いつかここを飛び出してやる、そんな決意と共に過ごす日々。だがその最中、瑞希の恋人とのキス現場を目撃し、衛の心はとても傷ついてしまう。それこそ家に帰れなくなる程に。

 

「私と付き合おうよ」

 

失意のままに向かった住まいであるマンションの屋上。危ない場所で見つめ直す自分。その彼の元に訪れる影。その名は京子。東京でアイドルをしていたが引退して帰ってみた衛の従姉である。挨拶も早々、彼女は痛い程の力で衛を引き留め告げる。死ぬ前に自分と付き合わないかと。

 

 訳も分からぬままにその提案を呑み、唐突に始まる恋人としての時間。まるで思いに突き動かされるかのようにぐいぐい来る京子。しかしその裏、そして彼女達の裏。そこには重すぎる愛が潜んでいる。

 

凛のそれは独占欲。自分だけのもの、といういっそ醜いまでの愛。

 

瑞希のそれは、何処か歪で曲がった愛。衛の愛情を試す為だけに男をとっかえひっかえする、端から見てるとドン引きしても仕方ないかもしれぬ愛。

 

そして京子の愛、それもまた重い。身勝手で逆恨みな復讐の念で選んだアイドルと言う手段を経て、今度は恋人同士となって依存させてからフる、という思わず首を傾げるかもしれぬ愛。

 

それぞれの愛を抱き、だからこそそれ以外の愛が許せず。衛の知らない所でぶつかり合い、彼を手中に収めんとそれぞれが包囲網を狭めていく。激しくぶつかり合っていく。

 

「もう、本当に無理なんだ」

 

その一端を目撃し、凛の元から飛び出した衛は瑞希を拒絶する。何処か晴れ晴れとした表情で、何かに吹っ切れたように。思いを振り切り本当の意味で京子と向き合い。そこから始まる、京子の本当の戦い。

 

だがまだ終わり、ではない。凛と瑞希はきっと立ち止まる訳もない。だからこそここからが本番なのだろう。

 

正に胃もたれするほどの愛がある、情緒をぐちゃぐちゃにかき乱されるこの作品。しかし鮮烈である、故に面白い。

 

頭の中を掻き回されるようなラブコメが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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