前巻感想はこちら↓
読書感想:死なないセレンの昼と夜 ―世界の終わり、旅する吸血鬼― - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、世界に雨が降らなくなったというだけで崩壊した世界も、よく見てみればわずかな水にしがみつき生きている者達だっている。この世界にもまだ、生きている者達がいる。人間と言う存在が存外しぶとい存在であるのは、先日私が感想を投稿した某セカイ系作品を読まれた読者様であればご存じであろう。そんな世界を、昼と夜の姿を行き来しながらのんびりと駆け抜けていくこの作品の主人公、セレン。彼女の旅はどう進んでいくのか。そう気になられている読者様も多いであろう。
その答えを簡単に言ってしまうのであれば、今巻も前巻と同じく連作短編集の形式をとっている。彼女が行く先々で出会い、別れ、時にぶつかり合う。愚かにして愛らしい人間の営みが綴られているのである。
道なりに進んだ先の、大きな街の廃墟。そこに住まう絵描きとその家族。しっかりしていない大黒柱と、若い大黒柱の不器用な愛がそこにあった。
砂漠の中のオアシスの町、そこを支配していたセレンと旧知の仲である不死者。彼女とぶつかり合う中、少女達の愛を見届けた。
独裁者に支配される街、そこには「博士」と「助手」のどこか儚くも優しい思いが根付いていた。
奇妙な樹に囲まれた村、そこにはセレンとはまた違った生を受ける不死なる存在がいた。生まれ変わった彼女が起こした裁きを見届け、また旅に出た。
セレンにとっても嬉しい場所である市場、その近くで営まれていた珈琲農園。そこには、暴力に屈しない人々の気高き心の強さが芯を通していた。
「しょせんわたくしたちは、ヒトがいなければ、ただの役立たずなのです」
不死者である以上、同じ時間は生きられぬ。化物として、最後の一線だけは相容れられぬ。それでも、大切なのは「いま」だから。人の営みが無ければ続けられぬ「いま」を積み重ね、唯一変わらぬ陽の光と闇世の中を、出会いと別れを繰り返しながら駆け抜けていく。
更に儚く、どこか切なく。前巻と比べてバトルが多めな中、かそけき人の営みを見つめ、その中で出会い、別れ、あてもなく旅を続けていく。どこか心揺れる、心に刺さる。そんなロードノベル的な面白さが、また一段と焙煎されて深まる今巻。
前巻を楽しまれた読者様は、是非今巻も読んでみてほしい。まだ読んでいない読者様は、今から是非読んでみてほしい。
きっと、貴方も満足できるはずである。
死なないセレンの昼と夜 第二集 ―世界の終わり、旅する吸血鬼― (電撃文庫) | 早見 慎司, 尾崎 ドミノ |本 | 通販 | Amazon