さて、画面の前の読者の皆様の中にもホロカこと、ホロライブカードゲームをご存じという方もおられるかもしれない。先に申しておくとこの作品は別にTCG関連のお話、というわけではない。大事なのはその性質の部分。周辺グッズがまぁまぁ割高だったり特殊レアリティが中々にいい値段したり、と結構な資金がかかる訳であるが。そう考えるとホロカというのは推し活グッズであり、推しの為ならいくらでも使えるというオタクの方々向けの商品なのかもしれない。
そう、オタクである。画面の前の読者の皆様の中にもオタクであるという方はおられるだろう。好きの為ならいくらでも予算をかけれるという方もおられるだろう。この作品もそんな、オタクと呼ばれる人種が躍動するファンタジー、という類を見ない作品なのだ。
魔術歴五百四十年、異界より来たりて物質を捕食し吸収する侵略種と呼ばれる生物たちと、人類が「境界騎士団」と呼ばれる組織を作り戦っている、とある世界で。騎士候補生である少年がある日、戦場で、空から落ちてきたという天空の城か、とツッコミたくなる出会い方をしたのは謎の少女、シャーロット(表紙右)。侵略種の群れを前に共闘するも、何故か彼女は自分の名前を聞いた途端、まるでオーバーフローしたようにぶっ倒れてしまい。放っておけず一先ず騎士団の自分の部屋で匿う事に。
「とても信じられないが、こうして証拠を見せられると納得するしかないな」
目覚めたシャーロットが見せたのは正にオタク丸出しの挙動。一体どういうことか、と聞いたら判明するのは衝撃の事実。どうもクロノは二百年後の世界で、世界を滅ぼしうるレベルⅤの侵略種七体を倒したとして英雄視され小説、漫画、アニメ、ゲームに至るまであらゆる媒体で題材となっているらしく。そしてレベルⅤ侵略種との戦いの中、偶々タイムスリップしてきた彼女はあらゆるコンテンツから二次創作までチェックし、携帯端末から私室に至るまですべてがクロノ尽くしのド級のオタクという事。
「―――私以外にも、未来から来た人間がいるのかもしれません」
感激した様子でサインとツーショットを強請られ、たじたじになりつつ引き受け。しかしそこで、クロノの武器であるブレードが歴史よりも早く破損しているという事実にシャーロットは自分以外の未来人がいるという可能性を語り。クロノを守る為にも、彼の騎士としてまずは同じ候補生として潜入してくる。
「―――奇遇ですね、クロノ先輩」
彼女と共に、時に幼馴染であるオフィーリアも交え過ごす中、遭遇するのは歴史において重要人物、今は未だ同僚であるアレックスの危機。かつて惨劇の仲、レベルⅤ侵略種より託された力で戦局は乗り切るも、その場で見つかったのは調教器と呼ばれるこの時代には存在しない筈の事実。そして現れる二人目の未来人。彼女の名前はアイ(表紙左)。表の顔はクロノの後輩、しかし素顔はシャーロットと同時代の秘匿された部隊出身。この時代に発生した教団に関する任務中にこの時代に転移してきた彼女は、娯楽も何もない環境でクロノの物語にハマった事で、こちらもシャーロットに負けぬレベルのオタク。 同じ相手を好む者同士、激突したりもする中。調教器の魔力を探るついでに三人でクロノの未来に関する聖地を巡ったりする中で判明したのは、下手人はかなり前からこの時代に居ると思しき事。 その瞬間、炸裂する悪意。下手人と共にあるのは、将来のレベルⅤの一体、「不死鳥」。 これ以上未来を変えたくないから、とシャーロットとアイはクロノを安全な場所に隔離し、二人だけで戦いへ。
「御託はいい。―――両方潰すぞ」
「いい覚悟だ、小僧。 ―――いい眼をするようになった」
引き込まれた精神世界で己の中に住まうレベルⅤ、「龍」と対話し。叫ぶのは己の願い。誰も死なせぬために騎士になった、そして二人は最早人生の一部。未来なんて知った事か、新たな未来を作ってやると。「龍」もその覚悟を認め笑い、更なる力を己の身へ。
相手となるのは絶対に叶わぬ相手、知った事か寧ろ上等とでも言うかのように。五年後の未来を今にしてやると全力で手繰り寄せて。
「もう、俺の人生の一部になってる」
彼女達に居て欲しいから、と願いをかなえるために戦いを切り開き。その先に未来人2人も含めた新たな未来を切り開いていくのだ。
オタクファンタジーと言う新たな地平に切り込んでいく中で王道の笑いも熱さもあるこの作品。真っ直ぐに面白い作品を見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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