前巻感想はこちら↓
読書感想:楽園殺し 鏡のなかの少女 - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、このダークでパンクなSFの世界観に引き込まれた読者様は画面の前にどれだけおられるであろうか。ここからは引き込まれた、又は前巻を読まれた人向けにこの感想記事を書いていく次第であるが、前巻ですれ違ってしまったまま、最悪の道を選んでしまったシルヴィとシン。二人を待っているのはどんな事態なのか。
「なんだよ。だれが来たかと思えば―――ひさしぶりだな、バレト候補生」
単騎で敵の待つ最深部へと踏み込んだシルヴィを待っていたのは、自分よりも格上の粛清官二人を圧倒的な力で手にかけたしなやかなる獣。その名をルーガルー、本当の名をウォール・ガレット警弐級。かつて最強の一歩手前まで上り詰めながらも、殉職した筈だった「黒獣」と呼ばれた男。
「生かしておいてやるから、行け。・・・・・・安心しろよ、後ろから襲ったりはしないからよ」
既に起動した砂塵兵器を前に、舐められた態度を取られ。無論退くわけにもいかず。シルヴィは決死の粛清戦へと挑んでいく。
が、しかし。この後どうなるかは察しの良い画面の前の読者の皆様ならお気づきであろう。そもそもの実力が圧倒的に違う相手に一度目で勝てるか。そんな訳が無い。一度きりの機会に賭けた決死の技すらも潰され。瀕死の重傷を負いながらも見逃されるという屈辱的な結果となってしまう。
戦いに挑んだ粛清官がシン以外死亡、もしくは何かしらの負傷により戦線離脱。そんな苦々しい結果を突き付けられても、ルーガルーの計画は止まらない。再び動き出す獣人達を前に、自分を置いて戦いの中へと飛び込んでいくシン。
対する自分は絶対安静、戦いなんてもってのほか。だがそれでも、シルヴィはまた立ち上がる。重傷の身体を無理やり立ち上がらせ、彼とは別のルートでルーガルーにリベンジするために飛び込んでいく。
「諦めるだなんて可愛げのあることが、あんたにできるわけないでしょうが!」
「だったらね、もう死んだと思えばいいのよ」
その胸に燃えるは、同じく因縁のできた相手へのリベンジを目論むリリスの言葉。そう、決して諦める事なんて出来はしない。だからこそ、今度こそと立ち上がる。
当代最強も援軍として加わる粛清戦の景色を眼下に。来ると予想されていた人間ではないけれど。それでも真っ直ぐに目を逸らさずに。階下でシンが新たな力を用いた戦いに挑んでいると知らず、戦いに挑むシルヴィ。
同じものを背負った二人の勝敗を分けたのは何か。それは獣と人が恐れるものの違い。
夜空を切り裂く最後の銃弾は何処へ向かったのか。それは是非、画面の前の読者の皆様の目で見届けてほしい。
だが、忘れてはいけない。
悪が滅びようとも、根本的な悪は滅んではいないという事を。