読書感想:楽園殺し 鏡のなかの少女

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リベンジャーズ・ハイ (ガガガ文庫) | 郁夫, 呂暇 |本 | 通販 | Amazon

 

 さて、今巻の感想の前振りが出る前にいきなりAmazonの頁へのリンクが上がっているのはどういう事なのか、と画面の前の読者の皆様は聞きたいかもしれない。その答えに関して言うなら答えは一つ。前述した作品を読まれた方がこの作品は何百倍も楽しめる、という事である。続刊の出なかったかの作品の、続刊と言って過言ではない作品なのである、この作品は。

 

 

この世界は「砂塵」と呼ばれる有害物質に覆われ、その毒性と、稀に人に与えられる異能による大混乱が巻き起こった後、荒廃の限りを尽くしていた。その世界の人類の生存圏である「偉大都市」。かの都市においては「粛清官」と呼ばれる異能を使い、異能犯罪を取り締まる精鋭部隊が街の治安を維持していた。

 

「シルヴィ。無論だが、これは決して𠮟責などではない。お前の命はお前だけのものなのだから、責任だってお前の責任だ」

 

「ただ、これだけは約束してくれ。―――次から、油断だけはしないと」

 

 その一人である、この作品の主人公シルヴィ(表紙)は事件を追い粛清の銃弾をばら撒く中、焦りを覚えてミスが増えていた。その理由は単純。少し前の事件からコンビを組んだ相棒、シンがあまりにも優秀であり。その足を引っ張ってばかりで陰口をたたかれている事を自覚していたからである。

 

未熟な自分でありたくない、彼女の隣に相応しい自分でありたい。そんな焦りを覚えつつ任務に邁進する彼女を心配するシンを余所に、事件はその足を止めてはくれない。

 

最近巷を賑わせている事件、それは人に多大なる力を与える代わりに獣人のような存在へと変えてしまう、謎の麻薬による事件。どう考えても大損にしかならぬ売り方で麻薬をばらまく謎の組織。そこに介在する思惑を知る事は未だ出来ず。仲間達と協力し、事件の中心へと迫っていくシルヴィとシン。

 

 だが、彼女達は未だ知らない。この事件の裏にあるのは粛清官、身内が遺した悪しき過去である事を。過去の時代に存在した悪意が今、牙を剥き蘇らんとしている事を。

 

尻尾を掴む余裕もなく、巻き起こる最悪の事態の前触れ。全員が駆り出される動乱、その裏で糸を引くのは謎の黒幕の思惑。

 

「あなたのことを、本当に尊敬しているの。心の底から、あのときからずっと。あなたが帰ってきてくれたときも、本当に嬉しかったのよ。だから・・・・・・」

 

そして、一番近くにいるのにシルヴィとシンはすれ違い。心の距離の断絶は、一番近くなのに程遠く。シルヴィはコンビとして、最悪の決断を下してしまう。

 

復讐と言う要素が目を惹くダークでパンクなSFであるこの作品。この巻だけで評価するのは難しい。だがどうか読んでみてほしい。

 

引き込まれたのなら、心わしづかみにされる事は明白であるはずである。

 

楽園殺し: 鏡のなかの少女 (1) (ガガガ文庫 ろ 1-2) | 呂暇 郁夫, ろるあ |本 | 通販 | Amazon