読書感想:ロストマンの弾丸

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様にとって洋画と言えば、どんな映画を想起されるであろうか。答えは各自の答えの中にあるとして、煙草と酒と抗争、そんな答えを想起される読者様はどれだけおられるであろうか。

 

 

第二次世界大戦の後、焼け跡から復興する事もなく。マフィア達が大量に流入したことを切っ掛けとし、無法者の都市となり。東京は今、「ロストマンズ・キャンプ」と呼ばれる、退廃と暴力が支配する犯罪都市となっていた。

 

「私はただ、この街の理不尽が許せない」

 

 そんな、倫理や道徳に忘れらされた街を駆ける一つの噂。植物をまるで金属のように変質させる異能を用い、悪を狩る。義賊のような「嘴マスク」。その正体は未那(表紙右)。多摩川を渡った先の全寮制の女学院で暮らす、孤児の少女である。

 

彼女の願いは只一つ。母親を亡くした過去の事件。その首謀者と思しきマフィアの幹部、ヴィト―を捕らえ法の元で裁く事。だが、義賊的な行動を為しても彼へは中々迫れずにいた。何故ならヴィト―は街を支配する一大勢力の大幹部であり、この街の住人にとって決して機嫌を損ねたくない相手だったからである。

 

「落ち着きなよ。長生きの秘訣は、いつだってクールにいることだ」

 

 そんなある日、彼女へ突然の転機が訪れる。突如届いた秘密への招待状、指定された場所で待っていたフリーランスの運び屋、東(表紙左)。彼に連れられ、カーチェイスを潜り抜けた先、未那は過去の秘密を目撃し、この街の闇へと迫り飛び込んでいく事となる。

 

過去の秘密とは何か、この街の闇とは何か。それを語るのは野暮と言うものだろう。実際、語るのは簡単であるがそれを語っては台無しというものであると私は思う。故に、この先はどうか画面の前の読者の皆様自身の目で見届けてみてほしい。

 

語れる事は僅か。敵であったはずの者は単純な敵ではなく、味方だと思った者は味方とは言えず。絆ではなくドライな繋がりで成り立っている関係だからこそ、時に協力し時に別れ。真実へと迫っていく。

 

「わかった。私が助けてみせる。あなたがそうしたように、今度は私が。この街も、悪党もみんな、救ってみせるから」

 

 そして、全ての真実を知った時。自らの心の中に空いた大きな穴から目を逸らし、自身の立場に縛られ生きてきた男の最期を見届けた時。未那は確かに遺志を継ぐ、夢を継ぐ。その時、確かに産声を上げたのである。いつかこの街に革命と救済の朝日を齎すかもしれぬ、未熟なヒーローが。

 

 

まるで古い洋画のように、酒とタバコと抗争の似合うダーティさが溢れる中に、胸躍るアクションが溢れるこの作品。

 

正にこの作品は唯一無二である。故にこそ、こんなにも心が躍るのかもしれない。

 

 

レベルの高いアクション描写を楽しみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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