読書感想:王様のプロポーズ 極彩の魔女

f:id:yuukimasiro:20210912222111j:plain

 

 プロポーズ。それは一世一代の大勝負であり、結婚するうえでは大切な儀式。様々なシチュエーションが想定されるもの。画面の前の読者の皆様はプロポーズという言葉を聞いて、どんな印象を抱かれるであろうか。

 

 

どんな印象があったとしても、プロポーズというものは大切なものである。では、この作品におけるプロポーズとはどんな意味を持つものであろうか。それは最終目標であり、辿り着きたい場所。ならば王様とは誰か。それは今、生まれたばかりの未熟な王の器である少年の事。

 

 その名は無色。何処にでもいるような平凡な少年は、ある日何故か不思議な空間に迷い込み、とある少女に初恋をした。彼女の名は彩禍(表紙)。しかし、その邂逅は衝撃的なものであった。何故か彼女は致命傷を負い死にかけていたのである。

 

訳も分からず、けれど初恋の感情を抱き。しかし無色もまた何者かの手により致命傷を負わされ。意識は暗転の時を迎える。

 

が、しかし。次に目を開けた時、目の前に広がるのは涅槃の景色などではなく現実世界の景色であり。彼は何故か、彩禍の姿となっていたのである。

 

訳も分からず混乱する彼の元に現れた黒衣と名乗るメイドさん。彼女により明かされたのは衝撃の事実。

 

それは、この世界には魔術師というものが存在し、三百時間に一度訪れる、滅亡を齎す魔物と戦っているという事。一般人を含む世界は傷ついても再生する、だが魔術師はその限りに非ず。そして彩禍は魔術師養成機関「空隙の庭園」の長であるという事。

 

彼女により託された力を無駄にしない為に、そして彩禍の後継者として世界を守る力を手に入れる為に。学園に通う事になる無色。

 

そんな彼は、彩禍として。途中からは無色としても学園に通う事になる中、様々な個性的な仲間達に出会っていく。

 

庭園の教師であり、粗暴的ながらも根は優しいアンヴィエット。医療部の責任者であるちびっ子のエルルカ。そして、彩禍へ熱狂的な愛を向け、無色につんけんな態度をとりながらも本心であるブラコンな態度を隠し切れぬ生き別れの妹、瑠璃。

 

 だがしかし、無色はまだ知らない。まだ彼の目の前には開示されていない真実があるという事を。そして彩禍を狙っていた刺客は、彼も予想だにしなかった最悪の相手であるという事を。

 

黒衣を交えた瑠璃とのデートの中、襲撃を受け傷つく瑠璃。許しておくわけにはいかず、自身を囮としておびき出した刺客。

 

「・・・・・・遠からぬ未来、わたしの世界は『滅び』を迎える」

 

だが、彼の目の前に姿を現したのは予想だにしなかった最悪の相手。本当の彩禍でも、無論自分でも勝ち得る筈のない絶対無敵の敵。「彼女」は真実を告げる。自分の創り出したこの世界は遠からず滅びを迎える。その未来を回避するためには、世界の人間の三割は犠牲にしなくてはいけない。だが、それを為すしか道はないと。

 

 だが、それを無色は面と向かって否定する。例えそれが事実だとしても、「彼女」はそんな事は言わないと。結局の所、戦い合うしかない。絶対に勝てる筈のない、規定された未来。だが、それを覆す鍵は既に彼の手の中にある。それは何か。

 

「―――ならば、俺はあなたを救うために、あなたを倒そう」

 

「俺には一つだけ―――絶対にあなたに負けないものがある」

 

それこそは恋、「彼女」への愛。誰にも負けぬその気持ちが生み出す、逆転の一手。それは今、産声を上げる王の力。

 

「―――彩禍さんにプロポーズする権利をください」

 

「―――いいだろう。楽しみにしているよ」

 

 そう、全てを統べる魔女の隣に並び立とうと言うのなら。その隣こそ「王」が相応しい。そして少年は歩き出す。彼だけの王道にして覇道を。

 

正に圧倒的、熱さと面白さ溢れる王道のファンタジー。その根底にあるのは最強のポロポーズ、最強の愛。

 

これを面白いと言わずして何を面白いと言えばよいのか。そんな万人に向けて間違いなくお勧めできる、ファンタジー界に新風を吹き込んでくれるこの作品。

 

王道ファンタジーが好きな読者様、全てのラノベ好きな読者の皆様にお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

王様のプロポーズ 極彩の魔女 (ファンタジア文庫) | 橘 公司, つなこ |本 | 通販 | Amazon