読書感想:高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。

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 さて、この国では普通自動車免許は十八歳から取得できる。大学生活を前に免許の取得のために自動車学校に通われた事のある読者様もおられるかもしれない。しかし、自動車を運転すると言う事は命を預かる、という事は忘れてはいけない事である。運転する際は実際の交通ルールを守り、安全を重視して運転したいものである。

 

 

実家がコンビニを経営し、店長である父親の早逝により卒業後はコンビニを継ぐことを決めている少年、廉太郎(表紙上部左)。そんな彼は、家族の助けとなる為、ひいては自分の為に「自由な旅」をする為に。校則で禁止されている運転免許を、こっそりと取得する。

 

「せんぱいにも弁明の機会を設けます」

 

 だが、取得して早々、面倒な相手にその事実が露呈してしまう。その相手の名はあやり(表紙上部右)。風紀委員を務める一年生の才媛であり、何故か廉太郎に親の仇かと言わんばかりに絡んでくる少女である。

 

しかし、糾弾するかと思われた彼女は意外や意外、彼の事情に理解を示し。彼を試すと言う名目で、休みの日にドライブの予定を取り付けてきたのである。

 

目的地は高尾山の自動車祈禱殿。彼女のナビでたどり着き、現地でお弁当まで振る舞われ、更にはお守りまで買われてしまい。

 

その優しさと去り際に見せた何処か切なげな顔。北海道と言う北の見果てぬ地の名をつぶやく彼女の顔に、何かを感じ。彼の心の中に、ふと違和感が湧きおこる。

 

いつもは喧々諤々、ぶつかり合ってばかり。でも何故、彼女はここまで自分に絡んでくるのか? 始まりは彼女から絡んできたと記憶している、でも何故。 そして自分は何も知らぬ、彼女の事を、と気づく。ふとした違和感が、彼女の事を知りたいと言う思いに変わっていく。

 

 何故彼女は、北海道という地に何か思う所があるのか。それは離婚と再婚の果てに形成された父親と継母という三人の家庭がうまくいっていないから。自分の実母が北海道にいるから。何故彼女は、廉太郎に敵のように絡むのか。それはかつて、自分が家出したときに彼に助けられ。けれどそれを、彼は覚えていないと思ったから。

 

自分は縛り付けられている、家と言う枷に。だから自由の翼を持つ彼に母親への伝言を託し、送り出そうとするあやり。

 

だけど、本当にそれでいいのか? 人生何が起きるか分からない、だったら後悔しない生き方を。破天荒だった父親の生き方と言葉が、あやりの元へ廉太郎を送り出す。

 

「一緒に行こうぜ。北海道」

 

 大切なのは己の心。例え憎たらしい相手でも、泣いている彼女を放置は出来ぬ。行きたいから行く、連れていきたいから連れていく。普通なんて知った事か。自由な翼を持つ彼は、彼女へと手を伸ばし引っ張り上げ。彼女と翼を分け合い、遥かなる大地へと飛び出していく。

 

今巻は言うなれば、始まりに過ぎぬ。しかし、既に心躍る面白さと心温まる優しさがある。

 

「これ以上、あの夜の自分をかっこ悪いやつにしたくない。女の子の前で言ったこと、破りたくないんだ」

 

そして実はお互いに少なからず思い合う、無自覚バカップルなケンカップルのラブコメがある。故にこの作品、既に真っ直ぐに面白い。正に悦い。

 

心躍る、心温まるラブコメが読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

高3で免許を取った。可愛くない後輩と夏旅するハメになった。 (GA文庫) | 裕時悠示, 成海七海 |本 | 通販 | Amazon